「はやぶさ2」が小惑星リュウグウの砂を地球に届けたことは、多くの人の記憶に新しいでしょう。その成功を受け、日本の宇宙探査は次なるターゲットとして火星の衛星フォボスを見据えています。「日本の大胆な火星衛星フォボスへのサンプルリターン計画が打ち上げ台に到着」と題された報道によると、探査機はすでに種子島宇宙センターに搬入され、年内の打ち上げに向けた最終準備が進んでいます。
「はやぶさ」の次は火星圏へ、MMX計画とは
火星衛星探査計画MMX(Martian Moons eXploration)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が主導する国際共同プロジェクトです。最大のミッションは、火星の衛星フォボスに着陸して表面の砂や岩石を採取し、地球に持ち帰ること。実現すれば、火星圏からのサンプルリターンは世界初の快挙となります。
探査機は2026年3月31日に種子島宇宙センターに到着しました。打ち上げは今年11月から12月の間に、日本の主力ロケットH3で行われる予定です。火星への最適な打ち上げ窓は約26か月に一度しか開かないため、このタイミングを逃すわけにはいきません。
5年がかりの壮大な旅路
MMXの計画は、打ち上げから地球帰還まで約5年にわたります。
- 2026年11〜12月: H3ロケットで種子島から打ち上げ
- 2027年: 約1年の飛行を経て火星圏に到達
- 2027〜2029年: フォボスとダイモスの観測、着陸地点の選定
- 2029年頃: フォボスに着陸し、約10グラムの試料を採取
- 2030年: 火星圏を出発
- 2031年: 地球に帰還(オーストラリアで回収予定)
探査機は3つのモジュールで構成されています。推進モジュールが地球と火星の往復を担い、探査モジュールがフォボスの観測と試料採取を実行。そして帰還モジュールに搭載された直径約60cmのサンプルリターンカプセルが、貴重な試料を地球に届けます。
仏独共同開発のローバーがフォボスを走る
MMXのもう一つの注目ポイントが、フランスとドイツが共同開発した小型ローバー「IDEFIX」です。重さ約23kg、太陽電池で動くこのローバーは、探査機本体がフォボスに着陸する前の2028年後半にフォボスの表面に降ろされます。
IDEFIXにはラマン分光計やカメラなど4つの科学機器が搭載されており、フォボス表面の鉱物組成や地形を調べます。地球の重力の約1000分の1しかないフォボスの極めて弱い重力環境で、少なくとも100日間(地球日)活動する計画です。
NASA、フランス国立宇宙研究センター、ドイツ航空宇宙センター、ESA(欧州宇宙機関)が参加するこの計画は、日本主導の月惑星探査としては過去最大規模の国際協力です。
記者の視点:フォボスの正体が太陽系の歴史を書き換えるかもしれない
MMXが解き明かそうとしている最大の謎は、「フォボスはどこから来たのか」という問いです。有力な仮説は2つあります。1つは、太陽系を漂っていた小惑星が火星の重力に捕まったという「捕獲説」。もう1つは、約45億年前に巨大な天体が火星に衝突し、飛び散った破片が集まって衛星になったという「巨大衝突説」です。
後者が正しければ、フォボスの砂には太古の火星の地殻物質が含まれている可能性があります。つまり、フォボスのサンプルを調べることで、火星そのものの成り立ちや、かつて水が存在したかもしれない環境の手がかりが得られるかもしれません。「はやぶさ2」が小惑星から太陽系の起源に迫ったように、MMXは火星圏の歴史を塗り替える発見をもたらす潜在力を秘めています。
2031年、フォボスの砂が届く日を待ちながら
日本の惑星探査は、小惑星から火星圏へと着実にステージを上げています。「はやぶさ」シリーズで培ったサンプルリターン技術を基盤に、より遠く、より困難なミッションに挑むMMX。年内の打ち上げが成功すれば、2031年に届く火星衛星の砂が、私たちの太陽系観を大きく変えてくれるかもしれません。種子島の射場で静かに出番を待つ探査機の旅立ちに、日本から声援を送りたいところです。
