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南極の氷が「宇宙の声」を捉えた、60年越しの予言が13回の電波で実証

宇宙からは目に見えない高エネルギー粒子が絶え間なく降り注いでいます。そうした粒子が厚い氷の中で粒子シャワーを起こすと、ごく微弱な電波が生まれる——そんな現象が60年以上前に理論として予言されていました。「南極の氷の奥深くで、長年予測されていた宇宙のささやきが13回の奇妙なバーストとして初めて検出された」と報じられたこの成果は、宇宙の最も激しい現象に迫る新たな「目」が正しく機能していることを証明するものです。

60年前の予言「アスカリアン効果」とは

1962年、ソ連の物理学者グルゲン・アスカリアンは大胆な予測を立てました。高エネルギーの宇宙線が氷のような密度の高い物質に衝突すると、粒子シャワーと呼ばれる連鎖反応が起き、その過程で周囲の電子を巻き込みながら特徴的な電波を放射する、というものです。

この「アスカリアン効果」は実験室レベルでは確認されていましたが、自然環境の氷の中で明確に捉えることは長年の課題でした。極地の環境では電波ノイズと本物の信号を区別するのが難しく、シミュレーション技術にも改良が必要だったのです。

南極の氷に埋め込まれた巨大な「耳」

この難題に挑んだのが、南極点付近に設置されたアスカリアン電波アレイ(ARA)です。ARAは5つの観測ステーションで構成され、各ステーションには深さ150〜200mの氷の穴に電波アンテナが設置されています。ステーション同士は約2km離れており、南極の氷床そのものを巨大な粒子検出器として利用するという壮大な仕組みです。

ARAは同じ南極点にある世界最大のニュートリノ観測施設アイスキューブの姉妹プロジェクトとも言える存在で、日本からも千葉大学の研究者がアイスキューブの観測に参加しています。

13回の「宇宙の声」が予測と完全に一致

研究チームは2019年に実施した208日間の観測データを詳細に分析しました。すると、氷の下方から到達した13件の異常な電波イベントが浮かび上がったのです。

これらが本物のアスカリアン放射なのか、それとも航空機のレーダーや近隣の通信からのノイズなのかを見極めることが最大の課題でした。最新のシミュレーション技術を駆使して、信号の到来方向、周波数、波形、電場の偏光を分析した結果、13件すべてが理論的予測と整合する特徴を示していることが判明しました。

統計的有意性は5.1シグマに達しました。素粒子物理学の世界では5シグマ——偶然にこの結果が出る確率が約350万分の1——が「発見」と認められる基準です。つまり、自然の氷の中でアスカリアン放射が起きていることが科学的に確定したのです。この成果は権威ある学術誌フィジカル・レビュー・レターズに掲載されました。

記者の視点:これは「検出器の実証」でもあった

今回の発見が特に重要なのは、ARAという装置が本来の目的——超高エネルギー宇宙ニュートリノの検出——に向けて正しく動作していると実証された点です。

ニュートリノは物質をほとんどすり抜ける「幽霊粒子」として知られます。宇宙線は主に氷の浅い層で粒子シャワーを起こす一方、ニュートリノはより深い場所で相互作用する可能性があります。そのため、信号の到来方向や角度の違いを手がかりに両者を見分けられます。ARAがこうした微弱な電波信号を正確に識別できると証明されたことで、宇宙の最も極端な現象を探る新たな窓が開かれたのです。

南極の氷が解き明かす宇宙の謎

研究チームは今後、5つのステーション全体の数年分のデータを用いた新たな解析で、最大7件のニュートリノ候補イベントが得られると見込んでいます。超高エネルギーニュートリノを捉えることができれば、ブラックホールや超新星といった宇宙で最も激しい天体現象の内側を直接覗く手段となります。60年越しの理論が実証されたことで、南極の氷は宇宙からの微弱な信号を捉える観測基盤として、本領を発揮し始めています。