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臓器を凍らせても「割れない」方法を発見、移植医療の最大の壁に挑む新技術

心臓、肺、肝臓——移植を待つ患者にとって、臓器は文字通り命綱です。しかし提供された臓器の保存期間はわずか数時間から十数時間。この時間の壁を超えるために「臓器を凍らせて長期保存する」研究が進んでいますが、ガラス化保存した臓器にひび割れが生じてしまうという致命的な問題がありました。「移植臓器を割らずに凍結する方法を発見」という報道によると、米テキサスA&M大学の研究チームがこの難問を解く重要な手がかりを見つけました。

臓器が凍ると「割れる」のはなぜか

臓器を長期保存するために注目されている技術がガラス化保存です。これは臓器を特殊な溶液に浸し、急速に冷却することで氷の結晶を作らせず、ガラスのような固体状態にする方法です。通常の凍結では水分が氷の結晶になり、細胞を内側から突き破ってしまいます。ガラス化保存はこれを回避できるため、「凍結保存の切り札」として期待されてきました。

しかし、ガラス化保存にも大きな落とし穴があります。臓器のような大きな組織をガラス状態まで冷やすと、温度の不均一さから内部に応力が生じ、ひび割れが発生してしまうのです。小さな細胞や組織片では問題にならなくても、腎臓や心臓のような臓器では、このひび割れが致命傷になります。

「ガラス転移温度」を高めれば割れにくくなる

テキサスA&M大学の研究チームは、この問題に対して明快な答えを示しました。鍵を握るのはガラス転移温度——液体がガラス状の固体に変わる境目の温度です。

研究を率いた機械工学科の研究者によると、「ガラス転移温度が高い溶液を使えば、ひび割れの可能性を大幅に減らせる」ことがわかりました。つまり、より高い温度でガラス状態に達する溶液を使えば、極端な低温まで冷やす必要がなくなり、温度差による応力も小さくなるということです。

ただし、ガラス転移温度を高くするだけでは不十分です。溶液が臓器の組織と生体適合性を保つことも不可欠です。凍結から守れても、溶液自体が細胞を傷つけてしまっては意味がありません。研究チームは、ひび割れ防止と生体適合性の両立が今後の課題だとしています。

2023年の「凍結保存した腎臓の移植成功」から何が進んだか

臓器の凍結保存研究は近年急速に進んでいます。2023年には、ミネソタ大学の研究チームがラットの腎臓をガラス化保存し、最大100日間保存した後に移植して腎機能を完全に回復させることに世界で初めて成功しました。この実験では、ナノ加温と呼ばれる技術——磁性ナノ粒子を臓器の血管に注入し、磁場で均一かつ急速に温める方法——が使われました。

しかし、ラットの腎臓は人間のものより格段に小さく、人間の臓器に応用するにはスケールアップが必要です。臓器が大きくなるほど、冷却・加温時の温度ムラが大きくなり、ひび割れのリスクが高まります。今回のテキサスA&M大学の研究は、まさにこの「大型化の壁」を乗り越えるための基礎理論を提供するものです。

記者の視点:日本の移植医療に光は届くか

日本では臓器移植を希望する待機者が1万7000人を超える一方、移植が実現するのは約3%にとどまります。特に腎臓移植の平均待機期間は約15年と深刻です。もし臓器を数日、数週間、あるいは数か月単位で保存できるようになれば、ドナーとレシピエントのマッチングに使える時間が飛躍的に増え、「時間切れ」で失われていた命を救える可能性があります。

さらに研究チームは、この技術が移植医療だけでなく、野生生物の保全ワクチンの保管食品ロスの削減にも応用できると指摘しています。臓器保存の「温度の壁」を超える技術は、医療の枠を超えて、幅広い分野への応用が期待されます。

「臓器バンク」が現実になる日に向けて

研究チームの共同研究者は、今回の成果を「水溶液の熱力学に関する画期的な貢献」と評価しています。まだ基礎研究の段階ではありますが、2023年のラット実験成功からヒトへの臨床応用に向けたロードマップが少しずつ描かれつつあります。「臓器バンク」のように、必要なときに必要な臓器を届けられる未来は、一歩ずつ近づいているのかもしれません。