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進化は何度もカニを作るのに「横歩き」だけは一度きり、2億年前の謎に迫る

カニといえば横歩き。子どもの頃に砂浜でカニを追いかけた経験がある人なら、あの素早い横移動を覚えているでしょう。ところが進化の歴史を見ると、「カニの体形」は何度も独立に生まれてきたのに、あの特徴的な横歩きはたった一度しか進化していなかったことがわかりました。「進化は何度もカニを作るが、ある重要な特徴は一度しか進化していない」と報じられた研究によると、横歩きの起源は約2億年前の共通祖先にさかのぼり、この「歩き方の発明」がカニの爆発的な多様化を後押しした可能性があります。

「すべてはカニになる」現象の正体

甲殻類の進化には不思議な傾向があります。ヤドカリやロブスターに近い仲間が、まったく別の系統から繰り返しカニに似た平たい体形を獲得してきたのです。この現象はカーシニゼーション(カニ化)と呼ばれ、少なくとも5回は独立に起きたとされています。インターネット上では「すべての道はカニに通ず」とミームにもなっている有名な進化の謎です。

しかし、見た目がカニでも「本当のカニ」とは限りません。分類学上の本当のカニは短尾下目と呼ばれるグループで、約7,904種が知られています。これはヤドカリ類やザリガニ類をはるかに上回る数です。陸上、淡水、深海まであらゆる環境に進出しており、甲殻類の中でも飛び抜けた成功を収めています。

では、本当のカニだけが持つ「秘密兵器」とは何なのでしょうか。

50種のカニを歩かせてわかった意外な事実

長崎大学の行動生態学者・川端裕基准教授らの研究チームは、日本、台湾、米国の研究機関と共同で、50種の本当のカニの歩行を実験室で観察しました。その結果、35種が主に横歩きをする一方、15種は前向きに歩くことが判明。意外にも、本当のカニの中にもまっすぐ前に進む種がいたのです。

研究チームはこの行動データと、最新の遺伝子解析による「カニの家系図」を組み合わせました。すると、横歩きは本当のカニの共通祖先でたった一度だけ進化したことが浮かび上がりました。つまり、現在前向きに歩いているカニも、もともとは横歩きの祖先から派生したことになります。

この研究は学術誌eLifeに2026年4月に発表されました。川端准教授は「体の形は何度も収れんするのに、横歩きのような行動の変化はきわめてまれ」と、体形の進化と行動の進化のギャップを強調しています。

大量絶滅が生んだ「横歩きの時代」

横歩きが誕生した時期も注目に値します。研究チームの分析によると、その起源は約2億年前、三畳紀とジュラ紀の境目にあたる時代です。この時期には地球規模の大量絶滅が起き、地殻変動によって浅い海の環境が大きく広がりました。

カニにとって浅瀬は理想的なすみかです。岩場や砂地に隠れながら、豊富な餌にありつける環境が一気に拡大したことで、横歩きという新たな移動手段を持ったカニの祖先が急速に多様化したと考えられています。

横歩きの利点は、捕食者からの逃避能力にあります。カニを狙うのはタコ、サメ、海鳥、アザラシなど前方から突進してくる捕食者ばかり。横方向への素早い移動は、こうした攻撃をかわす防御戦略として絶大な効果を発揮します。海岸の岩場でカニを捕まえようとした人なら、あの俊敏な横移動のすごさを実感しているはずです。

記者の視点:「形」と「ふるまい」の進化は別物

今回の発見で最も面白いのは、「見た目」と「行動」の進化がまったく異なるルールで動いているという点です。平たいカニの体形は環境の要請に応じて何度でも生まれますが、横歩きという行動は2億年前にたった一度だけ発明されたきりでした。

長崎大学のプレスリリースでも「体形の収れんは繰り返し起こるが、行動の革新はきわめてまれ」と述べられています。これは進化を考える上で重要な視点です。私たちはつい動物の「見た目」に注目しがちですが、実は行動の進化こそが種の運命を大きく左右する決定的な要因になりうるのです。

カニが教える「たった一つの発明」の力

体の形は何度でもコピーできるのに、歩き方の革新はたった一度。この対比は、進化における「イノベーション」の希少さと、それがもたらす爆発的な影響力を物語っています。約7,900種にまで広がったカニの繁栄は、2億年前のたった一つの行動変化から始まった可能性があるのです。研究チームは今後、化石記録やさらに多くの種の解析を通じて、横歩きの進化がカニの多様化にどれほど貢献したかをより詳しく検証していく予定です。