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アミノ酸20種は生命の絶対条件か?AIが19種で動くリボソームを実現

地球上のあらゆる生き物は、タンパク質を作るために同じ20種類のアミノ酸を使っています。バクテリアもヒトも植物も基本的には同じ20種類を使っており、この「20種の共通ルール」は生命の大前提と考えられてきました。ところが、そのルールに揺さぶりをかける細菌が実験室で作られました。「生命に不可欠な20種のアミノ酸、19種だけで動く細胞が誕生」と題されたNature誌の報道によれば、研究チームはAIの力を借りて大腸菌の中核的な分子装置を19種のアミノ酸で動くように再設計したのです。

「力任せ」では通用しなかった

研究を率いたのはコロンビア大学、MIT、ハーバード大学の共同チームです。ターゲットにしたのはリボソーム、つまり細胞の中でタンパク質を組み立てる「工場」にあたる分子装置でした。リボソームは50種以上のタンパク質で構成され、あらゆる生物に共通する極めて古い仕組みです。

チームがまず試みたのは、リボソームを構成するタンパク質に含まれるアミノ酸の一種イソロイシンを、構造が似たバリンロイシンで機械的に置き換える方法でした。リボソーム関連の39の必須遺伝子に対して「一括置換」を実施しましたが、結果は散々でした。細菌の増殖能力は野生型の約40%まで落ち込み、実用的とは言えない状態だったのです。

AIが見つけた「書き換え」の最適解

そこで投入されたのがAIです。チームは2つの異なるアプローチを組み合わせました。

  • 配列ベースのAI(ESM2、MSA Transformer):進化的に無理のない変異パターンを提案
  • 構造ベースのAI(AlphaFold2、ProteinMPNN):タンパク質が正しく折りたたまれるかを検証

つまり、進化的な妥当性と立体構造の両面をAIで検証し、機能を保ったままイソロイシンを除去できる設計を導き出したのです。

こうして完成した大腸菌株「Ec19」は、52個のリボソームタンパク質のうち21個からイソロイシンを完全に排除しています。合計382箇所の置換が行われましたが、増殖能力は野生型の90%以上を保ち、450世代にわたって変異が元に戻ることもありませんでした。

まだ「19アミノ酸生物」ではない

ただし、Ec19は真の「19アミノ酸生物」ではありません。リボソームタンパク質からイソロイシンを取り除いたものの、ゲノム全体にはまだ81,000箇所以上のイソロイシンが残っています。数千もの他のタンパク質にはまだ手をつけていない段階です。

この研究についてコメントを寄せたシンガポール国立大学の合成生物学者は、「これが可能だと示されたこと自体がとても興奮する」と評価しています。今後、より高速なDNA合成技術やゲノム全体を扱えるAIモデルが発展すれば、完全な19アミノ酸生物の実現も視野に入るといいます。

記者の視点:合成生物学とAIの融合が開く新しい生命観

この研究が画期的なのは、生命の「変えられないはずのルール」に手を加えた点です。シェイクスピアの戯曲から特定の文字を抜いて書き直すような離れ業を、AIがわずか数カ月で成し遂げました。

より実用的な視点では、イソロイシンに使われていたDNA配列が「空き」になることで、自然界には存在しない合成アミノ酸をそこに割り当てられる可能性が開けます。これは新しい薬や素材の設計につながる道筋です。

同時に、初期の生命が現在よりも少ないアミノ酸で機能していた可能性も示唆されています。生命がなぜ20種のアミノ酸を「選んだ」のかという進化の根本的な問いにも、新たな光を当てる研究といえるでしょう。

20種の「常識」を超えて、生命は再設計される

AIによるタンパク質設計は近年急速に進歩しており、2024年のノーベル化学賞もこの分野に贈られました。今回の成果は、AIが生命の最も基本的な部分を書き換える力を持ち始めたことを示しています。次の目標はゲノム全体からイソロイシンを排除すること。「生命とは何か」という問いに、実験室から新たな視点が加わりつつあります。