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「AIに置き換えるから解雇」は違法、中国の裁判所が下した画期的判決

「あなたの仕事はAIがやるので、明日から来なくていいです」。もし上司にこう言われたら、あなたはどうしますか。中国の裁判所がこの問いに明確な答えを出しました。「AIに置き換えるための解雇は違法だと中国の裁判所が判断」と報じられたこの判決は、AI時代の働き方に一石を投じるものです。世界中でAIによる雇用への影響が議論されるなか、「技術の進歩」を理由にした解雇にどこまで法的な歯止めをかけられるのか。この判決の中身と、日本への示唆を読み解きます。

月給57万円から34万円への減給を拒否、そして解雇

事件の舞台は中国・浙江省の杭州市です。35歳の周さん(仮名)は、あるテック企業でAI品質検査プロジェクトのマネージャーとして働いていました。AIが生成した回答の正確性を評価し、不適切なコンテンツを除外する業務です。月給は2万5,000元(約57万円)でした。

2025年、会社は「AI技術が進歩して人手が不要になった」として、周さんに一般職への降格と月給1万5,000元(約34万円)への減給を提案しました。月に23万円もの減給です。周さんがこれを拒否すると、会社は労働契約を一方的に解除しました。

周さんは労働仲裁を申し立て、さらに杭州市中級人民法院(日本の高等裁判所にあたる中級裁判所)に持ち込みました。

「AI導入は企業の自発的選択であり、解雇の正当な理由にならない」

2026年4月28日、杭州市中級人民法院はこの事件を含むAI関連労働紛争の典型事例を公表しました。判決の核心は明快です。

裁判所は、中国の労働契約法が定める解雇事由の一つである「客観的状況の重大な変化」にAI導入は該当しないと判断しました。この条項は通常、企業の移転や合併のようにやむを得ない事情を指します。一方、AI技術の導入は市場競争力を高めるための企業の自発的な経営判断です。

裁判所は次のように述べています。「AI技術は企業の効率を改善し、労働を解放し、従業員の福利を向上させるために活用できる。しかし、技術の進歩を口実に一方的に減給したり契約を解除したりすることは許されない」。

つまり、AIで利益を得るのは企業の選択である以上、そのリスクやコストを従業員に転嫁してはならないというのが裁判所の立場です。会社には違法解雇として、法定補償金の2倍にあたる賠償金の支払いが命じられました。

世界のテック業界では7万8,000人が解雇されている現実

この判決が注目を集める背景には、AI導入を理由にした人員削減が世界中で加速している現実があります。The Next Webの報道によれば、2026年のテック業界ではすでに7万8,000人が解雇されており、その多くがAI関連の構造改革を理由に挙げています。

興味深いのは、AI推進に最も積極的な中国が、同時に労働者保護の先陣を切ったことです。複数の調査によると、中国の市民はAI技術への信頼度が世界第3位と高く、テクノロジーに対して前向きな姿勢を持っています。しかし政府と司法は、技術への信頼と労働者の保護を両立させる道を選びました。

記者の視点:日本にとって他人事ではない

日本でも「AIに仕事を奪われるのではないか」という不安は広がっています。では、日本で同じようなケースが起きたらどうなるのでしょうか。

実は日本の労働法にも、同様の保護の仕組みがあります。AI導入に伴う人員削減は「整理解雇」にあたり、裁判所は「整理解雇の四要件」で正当性を判断します。具体的には、人員整理の必要性、解雇を回避する努力、人選の合理性、手続きの妥当性の4つです。特に業績が好調な企業がAI導入だけを理由に従業員を解雇しようとすれば、日本でも違法と判断される可能性が高いとされています。

中国の判決で示された「技術革新のリスクを従業員に転嫁してはならない」という原則は、日本の整理解雇法理とも通じるものです。ただし、日本ではまだAI導入を直接の争点とした判例が少なく、今後の議論に向けて中国の先例は重要な参考になるでしょう。

AI時代に問われる「技術と人」のバランス

今回の判決は、AIの導入そのものを否定するものではありません。むしろ、技術の恩恵を企業だけが享受し、そのコストを従業員だけが負担する構図を戒めたものです。

AIが仕事の進め方を変えていくのは避けられない流れです。しかし「AIができるから人はいらない」という短絡的な判断には、法的にも倫理的にもブレーキがかかり始めています。技術を活用しながら人を守る、そのバランスをどう取るか。中国の裁判所が示した一つの答えは、日本を含む世界中の企業と働く人たちに考えるきっかけを与えてくれます。