ペットボトル、食品トレー、合成繊維の衣類。私たちの暮らしに欠かせないプラスチック製品は、廃棄後に細かく砕け、海や土壌を汚染しています。しかし問題はそれだけではありませんでした。「大気中のマイクロプラスチック・ナノプラスチックによる温暖化への寄与」と題されたNature Climate Change誌の論文が、空気中を漂う微小なプラスチック粒子が地球を温める「隠れた温暖化要因」としての寄与を定量的に示しました。その温暖化効果は、すすとして知られるブラックカーボンの約16%に相当します。
プラスチックの「色」が太陽光を吸収する
研究を率いたのは、デューク大学のドリュー・シンデル教授と復旦大学の研究チームです。チームは電子エネルギー損失分光法という手法を使い、大気中に漂うマイクロプラスチック(5mm以下)とナノプラスチック(ナノメートル級)の光学特性を精密に測定しました。
最大の発見は、プラスチックの「色」が決定的に重要だということです。黒、青、赤、黄色といった着色されたプラスチック粒子は、無色の粒子に比べて約75倍も多くの太陽光を吸収していました。吸収されたエネルギーは熱に変わり、大気を温めます。着色されたマイクロプラスチックは、無色のものと比べて温暖化効果を15.3倍にも増幅させていたのです。
一方、大気中での「経年変化」の影響も調べました。紫外線にさらされると白いプラスチックは黄ばんで光を吸収しやすくなりますが、逆に赤いプラスチックは退色して吸収が減ります。この2つの効果はほぼ相殺し合い、全体の光学特性に大きな変化は見られませんでした。
太平洋ゴミベルトの上空が「ホットスポット」に
研究チームは気候モデルを使い、大気中のマイクロプラスチック濃度を世界規模でシミュレーションしました。その結果、地球全体での平均的な温暖化効果は0.039 W/m²と算出されました。これはブラックカーボンによる温暖化効果の約16%に相当します。
しかし、場所によって影響には大きな偏りがあります。特に深刻なのが、ハワイとカリフォルニアの間に広がる北太平洋亜熱帯環流、いわゆる「太平洋ゴミベルト」の上空です。海面に集積した大量のプラスチックゴミが波しぶきとともに大気中に放出されるため、この地域ではマイクロプラスチックによる温暖化効果が約1.34 W/m²に達し、ブラックカーボンの約4.7倍にもなっていました。
この太平洋ゴミベルトは日本にとっても無縁ではありません。2022年の研究では、ここに漂うプラスチックゴミの90%以上が中国、日本、韓国、米国、台湾など6カ国の漁業活動に由来すると報告されています。
記者の視点:「見えない汚染」が気候にも影響する時代
マイクロプラスチック問題はこれまで、海洋生物への影響や人体への健康リスクが主な論点でした。しかし今回の研究は、プラスチック汚染が気候変動にも直接関与しているという新たな次元を突きつけています。
研究チームは、マイクロプラスチックを「放射加熱と炭素収支の両方に影響を与える二重の脅威」と表現しています。プラスチックは製造時にCO2を排出し、分解時にはメタンを放出し、そして大気中を漂いながら直接地球を温める。ライフサイクル全体を通じて温暖化に加担しているのです。
ETHチューリッヒの研究者は、大気中のマイクロプラスチック濃度が「年々増加している」と指摘しています。世界のプラスチック生産量は年間4億トンを超え、今後も増え続ける見通しです。温暖化効果が濃度に比例するなら、この「隠れた要因」の影響は今後さらに大きくなる可能性があります。
海のゴミが空の問題になる前に
今回の研究の意義は、プラスチック汚染対策が気候変動対策にもなり得ることを示した点にあります。特に太平洋ゴミベルトのような海洋プラスチック集積地域では、温暖化効果がすすを大幅に上回っており、ゴミの回収や流出防止が気候面でも意義を持つ可能性が示唆されます。
日本は2022年に「プラスチック資源循環促進法」を施行し、使い捨てプラスチックの削減に動いています。しかし今回の研究結果を踏まえれば、海に流出するプラスチックの削減、特に漁業由来の廃棄物対策がこれまで以上に急務と言えるでしょう。私たちが使うプラスチックの「色」までもが気候に影響するという事実は、この問題の根深さを改めて思い知らせてくれます。
