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Google DeepMindの研究者らが組合化へ、軍事AI契約に「NO」を突きつける

AIが兵器に使われるかもしれない。そう知ったとき、自分が開発に関わっていたらどうしますか。Google傘下のAI研究所で、研究者たちが行動を起こしました。「Google DeepMindの従業員が軍事AI契約をめぐり労働組合結成に投票」とWIREDが報じたニュースによれば、ロンドンのDeepMind従業員たちが組合化を進め、自社のAI技術が米軍やイスラエル軍で使われることに異議を唱えています。最先端AIの研究所で、なぜ今、組合という手段が選ばれたのか。その背景を読み解きます。

「人類のためのAI」が兵器になる日

きっかけは2025年2月でした。Googleの親会社Alphabetが、「AIを兵器開発や監視に使わない」という倫理原則を、公式サイトからひっそりと削除したのです。この原則はもともと2018年に制定されたものでした。当時、Googleが米国防総省のドローン映像分析プロジェクト「Project Maven」に参加していることが発覚し、約4,000人の社員が抗議文に署名したことを受けて打ち出された方針でした。

それから7年。方針は撤回され、2026年5月初旬にはGoogleがペンタゴンと新たな契約を結んだことが報じられました。Googleの生成AIモデル「Gemini」を、軍の機密ネットワーク上で「あらゆる合法的な政府目的」に使用できるという内容です。この「あらゆる合法的な目的」という文言は、事実上の白紙委任だと批判を浴びています。

98%が組合化の推進を支持

こうした動きに対し、ロンドンのDeepMind従業員たちは英国の2つの労働組合——通信労働者組合(CWU)とユナイト組合——を通じた団体交渉を目指すことを決めました。CWU組合員の98%が組合結成を支持する投票を行っています。

従業員たちはGoogleの英国・アイルランド担当責任者に書簡を送り、組合の承認を要求しました。CWUのテクノロジー担当責任者は「組合化の根本にあるのは、GoogleにAIの倫理基準を守らせること」とWIREDに語っています。書簡ではGoogleに対して10営業日以内に組合を承認するか、調停による交渉に応じるよう求めています。応じなければ、法的手続きによって承認を強制する方針です。

これは最先端AI研究所における世界初の組合結成の試みとされています。米国では2021年にアルファベット労働組合が結成されましたが、こちらは会社から団体交渉権を認められていません。

Anthropicの「拒否」がもたらした連帯

この動きはGoogle社内だけの問題ではありません。2026年2月下旬、AI企業Anthropicが国防総省との契約で「自律型兵器や市民の大量監視」への使用を拒否したところ、国防総省はAnthropicをサプライチェーンリスクとして指定しようとしました。これに対し、DeepMindとOpenAIの従業員がAnthropicを支持する公開書簡に署名しました。

一方、GoogleだけでなくOpenAI、Microsoft、SpaceXなど計7社が国防総省と、機密ネットワーク上でAIモデルを運用する契約を結んだことが報じられています。米国内でも約600人のGoogle社員がこの契約に反対する書簡に署名しましたが、2018年のProject Mavenのときの4,000人と比べると、抗議の規模は縮小しています。

Google側は「国家安全保障を支援するAIサービスを提供する企業連合の一員であることを誇りに思う」と述べる一方、「AIを国内の大量監視や、適切な人間の監督なしの自律型兵器に使用すべきではないという官民の共通認識を引き続き尊重する立場だ」と説明しています。

記者の視点:2018年の「勝利」と2026年の現実

2018年のProject Maven抗議は、テック企業の従業員が軍事契約を覆した象徴的な出来事でした。しかし2026年の状況は大きく異なります。AIが国家安全保障に直結する技術として認識され、米中のAI競争が激化する中、「倫理的なAI」を訴える従業員の声は以前ほどの力を持ちにくくなっています。

日本にとっても無関係ではありません。防衛省はAI技術の防衛分野への活用を進めており、現行の「防衛力整備計画」でもAI関連の投資が位置づけられています。GoogleやOpenAIのAIモデルが軍事目的で使われるルールは、日米同盟を通じて日本の安全保障にも影響しうるテーマです。

今回の組合化の動きが注目されるのは、英国の労働法のもとでは、組合が承認されれば法的拘束力のある団体交渉が可能になる点です。米国のアルファベット労働組合にはなかった「交渉の実効性」を持ちうるのです。

AI開発者が「何に使われるか」を問う時代へ

DeepMindの従業員たちは、組合が承認された場合、イスラエル軍との契約の撤回、AI製品の使途に関する透明性の確保、そしてAI自動化による解雇に対する何らかの保証を求める方針です。

CWUの担当者は「ロンドンで事業を拡大しているAnthropicやOpenAIの従業員からも、同様の相談が来ている」と明かしています。AI技術を開発する側が、その技術の使われ方に対して集団で発言権を持とうとする動きであり、一企業の労使問題にとどまらず、AI産業全体の転換点になるかもしれません。