2029年4月、直径375mの小惑星が地球のすぐそばを通過します。静止衛星よりも近い、わずか約3万2000kmの距離です。この歴史的な瞬間を逃すまいと、ESAとJAXAがタッグを組みました。「ESAとJAXA、惑星防衛で協力しラムセス・ミッションを小惑星アポフィスへ」として発表されたこの計画の全貌を紹介します。
5000年に1度の「ニアミス」を科学に変える
小惑星アポフィスは、2029年4月13日(日本時間4月14日午前6時46分)に地球へ最接近します。約3万2000kmという距離は、静止衛星の軌道(約3万6000km)よりも近く、地球から月までの距離のおよそ10分の1。これほどの大きさの天体がここまで接近するのは、5000〜1万年に1度の出来事です。
なお、アポフィスが地球に衝突する危険性はありません。しかし科学者にとっては、小惑星の内部構造や地球の重力がもたらす影響を間近で観測できる、またとないチャンスなのです。
ラムセス・ミッションとは
ラムセス(RAMSES: Rapid Apophis Mission for Space Safety)は、欧州宇宙機関(ESA)が主導する探査ミッションです。2028年に打ち上げ、2029年2月にアポフィスへ到着。最接近の約2か月前から小惑星に寄り添い、地球の重力で小惑星の形状や表面、軌道がどう変化するかを観測します。
最接近時には小惑星から約5kmの距離まで近づき、重力による変形のプロセスをリアルタイムで記録する計画です。得られたデータは、将来もし地球に衝突しそうな天体が見つかった場合に、その軌道を変える「偏向技術」の開発に直結します。
JAXAの役割とH3ロケット
2026年5月7日、ベルリンでESA長官とJAXA理事長の山川宏氏が協力覚書に署名しました。JAXAが担当するのは以下の3つです。
- H3ロケットによる打ち上げ(種子島宇宙センターから)
- 熱赤外線カメラの提供(小惑星の表面温度を測定)
- 軽量太陽電池パネルの提供
日本は「はやぶさ」「はやぶさ2」で小惑星探査の実績を積み重ねてきました。今回のラムセスでは、その技術を惑星防衛という新しい領域に活かすことになります。ESAとJAXAの協力は、同じく小惑星を調査する「ヘラ・ミッション」でもすでに実績があり、今回はその発展形です。
記者の視点:日本の宇宙技術が「地球を守る」使命に変わる
はやぶさシリーズが「小惑星から何かを持ち帰る」ミッションだったとすれば、ラムセスは「小惑星から地球を守る」ための知見を得るミッションです。目的が科学的好奇心から実用的な防衛へとシフトしたことで、宇宙探査の意味合いが変わりつつあります。
また、H3ロケットが国際ミッションの打ち上げ手段として選ばれた意義も大きいです。2024年の打ち上げ成功以降、H3は国際的な信頼を着実に築いており、ラムセスはその実力を世界に示す舞台となるでしょう。
2029年、空を見上げる準備を
アポフィスの最接近まで約3年。肉眼でも見えるほど明るくなると予測されており、世界中の人々が「惑星防衛」を実感する日になるかもしれません。その瞬間、すぐそばにはラムセスが飛んでいます。科学と防衛の最前線を、日本の技術が支えているのです。
