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核爆発が作った「ありえない結晶」、トリニティ実験から80年後の新発見

理科の授業で「結晶」と聞いて思い浮かぶのは、岩塩や雪の結晶のように、原子がきれいに並んだ規則正しい形ではないでしょうか。ところが地球上には、人工的にも自然界にもめったに現れない「変わり者」の結晶が存在します。その新顔が、80年以上前の核実験跡から見つかりました。海外メディアのScienceAlertが「世界初の核爆発が『ありえない』結晶を生み出していた」と報じた研究を手がかりに、人類初の核実験が地球科学に残した思わぬ置き土産を読み解きます。

トリニティ実験の「ガラス」から現れた新顔

舞台は1945年7月16日、米国ニューメキシコ州の砂漠で行われたトリニティ実験。マンハッタン計画の総仕上げとして、人類初の核爆発が起きた現場です。爆発の中心では一瞬のうちに摂氏1,500度を超える高温と、地表の大気圧の約5万〜8万倍にあたる5〜8ギガパスカルの圧力が発生し、鉄塔や銅ケーブル、砂漠の砂が一気に溶け合いました。

冷えて固まったあとに残ったのが、緑がかったガラス状の物質トリニタイトです。地質学者にとっては、自然界では再現できない極限状態の「タイムカプセル」のような存在として、長年にわたって調べられてきました。

そして2026年5月、フィレンツェ大学の地質学者ルカ・ビンディ氏らのチームが、このトリニタイトの中から これまで知られていなかった新種の結晶 を見つけ出したと、米国科学アカデミー紀要(PNAS)で発表しました。

原子が「かご」になって原子を閉じ込める構造

新発見の結晶は、I型クラスレートと呼ばれるタイプに属します。クラスレートとは、原子が多面体状の「かご」のような骨格を組み、その内部に別の原子や分子を取り込む結晶構造です。

構造 内容
かご状の骨格 主にケイ素(Si)
かごの中 カルシウム(Ca)原子
少量成分 銅(Cu)、鉄(Fe)

ケイ素とカルシウムを主体に、銅と鉄を少量含むI型クラスレートは過去に報告がなく、しかも核爆発によって生まれたクラスレートが結晶学的に確認されたのは今回が史上初です。原子の並びはX線回折という手法で確かめられました。これは結晶にX線を当て、得られた回折パターンから原子の並び方を読み解く方法です。

同じ場所に「準結晶」も眠っていた

実は、ビンディ氏らは2021年にも同じトリニタイトの中から準結晶を見つけて報告しています。準結晶は、原子が一定のルールに沿って並んでいるものの、雪の結晶のような繰り返しの周期は持たない、不思議な物質です。発見者のダニエル・シェヒトマン氏は2011年のノーベル化学賞を受賞しています。

今回見つかったクラスレートは、過去に同じトリニタイトから見つかった準結晶と 同じ4種類の元素(鉄・ケイ素・銅・カルシウム) からできています。研究チームは、両者が同じ極限条件のもとで別々に生まれたとみています。一方からもう一方が育ったのではなく、爆発の瞬間にそれぞれが独立に形を整えたという解釈です。

記者の視点:核実験跡が「天然の高圧研究所」になる時代

この発見は、単に「珍しい結晶が見つかった」という話にとどまりません。地球科学にとって、いくつかの示唆を含んでいます。

ひとつは、核爆発のような極端な条件は、現在の実験室では再現が難しいという点です。1500度の温度と数万気圧の圧力が同時に発生する状況は、レーザー圧縮や衝撃波の実験でも長時間維持するのは大変です。地下深部のマグマや隕石の衝突跡など、自然界の極限現象を理解するためのヒントが、思いがけず核実験の副産物から得られているのです。

もうひとつは、過去の試料を改めて見直す価値です。トリニタイトは戦後すぐに発見・採取され、博物館や研究機関に保管されてきました。同じ試料を、最新の分析装置で見直すたびに新しい構造が現れています。日本の研究者にとっても、岩石や隕石の試料を改めて高分解能で測り直すことの大切さを思い出させてくれます。

そしてもうひとつ、忘れてはいけないのは核実験の歴史的な重みです。トリニタイトは、核兵器の誕生という人類史の決定的な瞬間に生まれた物質です。その結晶構造を平和的な科学のテーマとして読み解く営みは、過去を風化させず、極限現象の物理を次世代に引き継ぐ静かな方法のひとつでもあります。

「ありえない」が見つかると科学が広がる

クラスレートや準結晶は、その性質を応用すれば、熱を伝えにくいけれど電気は流れる新しい半導体や、強くて軽い構造材料につながると期待されています。爆発が作った極限の結晶を観察することで、研究者は どんな条件でどのような原子配列が安定なのか を、より広い視野で考えられるようになります。

人類最初の核爆発から80年以上が経った今も、その閃光の残り火は静かに新しい科学を照らしています。次にトリニタイトから取り出されるのは、どんな「ありえない結晶」なのか。研究の続報にも注目したい発見です。