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アルゼンチンで新種の長い首の恐竜発見、2系統の特徴を併せ持つジュラ紀の謎

国立科学博物館の恐竜展示で巨大な首と尾を持つ竜脚類の骨格を見上げたことがある方も多いのではないでしょうか。あの長い首の仲間が、また一つ新しい種類として南米から名乗りを上げました。「アルゼンチンで新種の巨大な長い首の恐竜が同定される」と題された発表によると、ドイツのミュンヘン大学を中心とする国際研究チームが、アルゼンチンの牧場で見つかった化石を新属新種の恐竜と認定しました。学名は「ビカラコサウルス・ディオニデイ」。約1億5,700万年前、ジュラ紀後期のゴンドワナ大陸に生きていた巨大草食恐竜です。今回はその発見の背景と、これまでの竜脚類分類を揺るがす不思議な特徴を見ていきます。

牧場主が25年前に拾った骨が新種だった

化石が見つかった場所は、アルゼンチン南部パタゴニア地方のチュブ州にあるカニャドン・カルカレオ層と呼ばれる地層です。発端は2001年3月、地元の農場主ディオニデ・メサさんが自分の牧場で奇妙な骨を見つけ、研究者に知らせたことでした。

翌年から本格的な発掘調査が始まり、2011年までに30個以上の椎骨(背骨)、肋骨、骨盤の一部が掘り出されました。研究者たちは20年以上にわたり、これらを既存の恐竜と比較し続けます。そして2026年4月、査読付き科学誌PeerJに発表された論文で、ようやく新属新種として正式に記載されました。種小名「ディオニデイ」は発見者ディオニデさんへの敬意を表しており、25年の歳月を経て農場主の名がそのまま学名に刻まれたわけです。

全長20m、2つの系統が混ざる不思議な体

ビカラコサウルス・ディオニデイは、首と尾の長い四足歩行の植物食恐竜である竜脚類の仲間です。竜脚類は地球史上もっとも大きな陸の生き物として知られ、推定全長は約20メートルに達したと考えられています。学校のプール(25メートル)にあと少し届かないほどの大きさです。

注目を集めているのは、その骨格にある奇妙な「混ざり合い」です。研究チームによると、背中の椎骨の一部には細長い体と長い尾で有名なディプロドクス科を思わせる特徴がある一方、骨格全体の解析からは前肢が長く首を上向きにすると言われるブラキオサウルス科に近い可能性が示されました。

比較項目 ディプロドクス科 ブラキオサウルス科 本種
体型 細長い 前肢が長い 一部の椎骨は前者に類似、系統解析では後者に近縁
代表種 ディプロドクス ギラファティタン ビカラコサウルス
主な産地 北米・アフリカ 北米・東アフリカ 南米(パタゴニア)

研究を主導したミュンヘン大学のアレクサンドラ・ロイター氏は「本種はブラキオサウルス科に近縁で、南米のジュラ紀から見つかった最初のブラキオサウルス科候補となる可能性がある」と述べています。これが裏付けられれば、これまで北半球とアフリカ中心と考えられていた同科の分布図が大きく書き換わることになります。

研究チームは、こうした「混在した特徴」が偶然ではなく、ブラキオサウルス科とディプロドクス科が分かれた直後の進化的に近い時期を反映している可能性も指摘しています。つまり、ビカラコサウルス・ディオニデイは、巨大化への進化が枝分かれする「分岐点」付近に位置していたのかもしれません。

記者の視点:南半球の恐竜地図はまだ空白だらけ

恐竜研究というと、米国西部やモンゴル・ゴビ砂漠の発掘風景を思い浮かべる方が多いかもしれません。実際、ジュラ紀の竜脚類の標準的なイメージは、米国モリソン層やタンザニアのテンダグル層といった、北半球と東アフリカの化石から組み立てられてきました。

しかし、当時の地球には超大陸ゴンドワナがあり、現在の南米、アフリカ、南極、オーストラリア、インドはひとつながりでした。これら南半球の地域にも、多様な恐竜相が広がっていた可能性があります。今回の発見は、その「南半球の空白」を埋めるピースの一つと言えます。

日本にとっても他人事ではありません。福井県立恐竜博物館などが力を入れているアジア産恐竜の研究も、こうした世界各地の比較標本があってはじめて系統が読み解けます。1体の新種恐竜は単独で完結する発見ではなく、地球規模の進化パズルを組み直す部品なのです。

25年越しの命名、次は系統樹の塗り替え

農場主が拾った1本の骨から、四半世紀を経て新種記載に至ったビカラコサウルス・ディオニデイ。その発見は、ジュラ紀の竜脚類進化、特にブラキオサウルス科の起源と南米への進出時期について新たな問いを投げかけています。

研究チームは今後、追加の発掘調査と詳細な比較解剖学的解析を進める予定です。もし本種が確実に南米初のブラキオサウルス科と確定すれば、恐竜の系統樹は南半球に大きく枝を伸ばすことになります。パタゴニアの大地には、まだ私たちの知らない巨大な隣人が静かに眠っているのかもしれません。