小学校の理科で、触れると葉を閉じるオジギソウに指で触って遊んだ経験がある方は多いのではないでしょうか。あの一見シャイな振る舞いの裏で、実は「光が何回当たったか」を数えるような能力が働いているとしたらどうでしょう。海外メディアのThe Daily Galaxyが「脳のない『シャイ』な植物が、思っていたよりも賢いかもしれない」と伝えた研究を手がかりに、神経も脳もない植物が見せた驚きの「カウント能力」を読み解きます。
3日サイクルで現れた「明日は光が来る」という予測
研究は米ウィリアム・アンド・メアリー大学で、心理学教授のピーター・ヴィシュトン氏と元教え子のペイジ・バートシュ氏によって行われました。論文は2025年、認知科学の国際誌「Cognitive Science」誌に掲載されています。
実験では、窓のない実験室の中に湿度を一定に保ったテントを作り、その中にオジギソウを置きました。そして3日間で1セットとなる明暗の繰り返しを与えます。1日目と2日目は12時間の明るさと12時間の暗闇、3日目は丸一日真っ暗、という独特のパターンです。
このサイクルを5回ほど繰り返すと、植物の振る舞いに変化が現れました。光が戻るはずの時刻の前後、つまり1日目と2日目の朝方には、葉や茎の動きが活発になります。ところが「光が来ない3日目」の朝方には、その動きがはっきりと減ったのです。植物はまるで「この朝は明るくなる」「この朝は暗いまま」を区別しているように見えました。
体内時計ではなく「数えている」と言える理由
ここで気になるのは、単に約24時間周期の概日リズム(生物が持つ体内時計)に従っているだけではないか、という疑問です。研究チームはこれを確かめるため、明暗サイクルの長さを24時間から20時間に短くしました。すると植物はほぼ即座に新しいスケジュールに適応し、20時間サイクルに合わせた動きを見せたといいます。
さらにチームは、明暗サイクルの長さを10時間から32時間までランダムに変える実験も行いました。その結果、12〜24時間の範囲ではきれいに予測の動きが現れるのに、その外側では動きのパターンが崩れてしまったのです。
ヴィシュトン氏はこれを「もっとも単純な説明は、時間に反応しているのではなく、起きた出来事の回数を追っている、ということだ」と表現しています。論文タイトル「Can Mimosa pudica Plants Enumerate Light Exposure Events?」の通り、植物が「光が当たった回数」という離散的なイベントを数えている可能性が浮かび上がりました。
葉枕という小さな関節と、神経のない情報処理
ではオジギソウは、どうやって「数える」のでしょうか。動きの正体は、葉の付け根にある葉枕(ようちん)という関節のような構造です。葉枕の中には2層の運動細胞があり、細胞内の水分が細胞壁を内側から押す圧力、つまり膨圧が急に変わることで葉が動きます。日本でも基礎生物学研究所の解説などで紹介されており、近年は埼玉大学などが、刺激から葉が動き出すまでの素早いシグナル伝達も詳しく解析しています。
このとき葉枕の中ではカリウムやカルシウム、塩化物などのイオンが行き来していますが、植物には動物のような神経細胞はありません。脳もニューロンのネットワークもなく、細胞同士の化学的・電気的なやり取りによって、「いつ光が来るか」「今日は来ない日か」を区別しているように見える、ということになります。
研究者たちは、これは「学習」と呼び得る現象だと考えています。ただし、人間や動物の学習と同列のものか、それとも植物に固有の別物として理解すべきかは、まだ慎重な議論が必要だと位置づけています。
記者の視点:神経のない「知性」をどう受け止めるか
今回の研究で面白いのは、認知科学者が真正面から植物の振る舞いに向き合った点です。心理学の文脈で「数を数える」と言えば、サルやカラスが物の個数を区別する能力などが思い浮かびますが、その対象に脳のない植物が加わったわけです。
一方で、過剰に擬人化するのは禁物です。オジギソウが「考えている」「意識を持っている」と言うには、まだ証拠が足りません。動物の認知と植物の認知をひとくくりにせず、「神経を使わずに似た機能をどう実現しているか」を冷静に解きほぐすことが、これからの植物科学の主戦場になりそうです。
この視点は、AIを設計する側にも示唆を与えます。生物の知性は必ずしも複雑な神経網だけで生まれるわけではなく、シンプルな要素が分散して働くだけでも、ある種の予測や記憶を実現できる可能性がある——。エネルギー効率の良い計算や、神経網に依存しない学習モデルを考える上で、植物は意外な教科書になるかもしれません。
庭先の小さな植物が問いかける「賢さ」の定義
オジギソウは日本でも初夏から秋にかけて、街中の植木鉢や学校の理科室で見かける身近な存在です。「触ると葉を閉じる」だけの静かな観察対象だと思っていた植物が、実は光のリズムを覚え、「次に何が起きるか」をちょっと先読みしているかもしれない——そう考えると、庭先の小さな鉢植えも、ずいぶん違って見えてくるはずです。
研究チームは今後、別の植物種でも同様の能力が見られるかを調べる予定です。続報を待ちつつ、ベランダのオジギソウを見る目が少し変わる、そんな発見と言えそうです。
