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地下700kmに「全海洋の3倍」の水、リングウッダイトが解く地球の謎

学校で「地球は水の惑星」と習った記憶のある方は多いはずです。普段目にする海は地表面積の約7割を覆っていますが、実はそれよりはるかに多い水が、私たちの足元のずっと奥深くに眠っているとしたらどうでしょうか。海外メディアのThe Daily Galaxyが「科学者たちが地下700kmに閉じ込められた巨大な海洋を発見」と報じた研究を手がかりに、地球内部にひそむ「もう一つの海」の正体と、それが地球の歴史にどう関わっているのかを読み解きます。

地下700kmに眠る「見えない海」

研究の舞台は、地下およそ410〜660kmに広がるマントル遷移層と呼ばれる領域です。元記事では「地下700km」と表現されていますが、これは上部マントルと下部マントルの境界付近を指す丸めた言い方で、実際の遷移層はその少し上から始まります。米ノースウェスタン大学の地球物理学者を中心とする研究チームは、ここに地表のすべての海水を合わせた量に匹敵し、最大で3倍にも達する水が閉じ込められている可能性があると推定しています。

ただし、私たちが想像するような「青く揺れる海」ではありません。水は液体としてそこにあるのではなく、岩石の中に分子レベルで取り込まれた状態です。手にすくえるわけでも、潜って探検できるわけでもなく、永遠に地表からは触れられない「閉じ込められた水」です。

それでもこの発見が重要なのは、地球がなぜ40億年以上も液体の水を保ち続けてこられたのか、その理由を説明できる可能性があるからです。火星や月のように水を失わなかった「水の惑星」の秘密が、足元の岩石の中にあるかもしれません。

水を蓄える鉱物「リングウッダイト」とは

水を蓄える主役として注目されているのが、リングウッダイトという青みがかった鉱物です。マントル遷移層の高い圧力と温度のもとでだけ安定して存在し、結晶構造のすき間に水酸基(OH基)の形で水を取り込めるという特殊な性質を持ちます。

研究を主導したスティーブン・ジェイコブセン氏は、その仕組みをスポンジに例えて説明しています。液体の水がそのまま染み込んでいるわけではなく、結晶の格子に「化学的に組み込まれた水」が膨大な量を蓄えているというイメージです。

研究チームは米国内に設置された約2,000台の地震計を使い、500回以上の地震波を解析しました。地震波は乾いた岩石より水分を含む岩石の中をゆっくり伝わる性質があり、その速度の差を地図上にマッピングすることで、地下深部に水が広がっている領域をあぶり出したのです。

「もしなければ山だけが顔を出していた」

研究チームの解釈によれば、この水がもしマントル遷移層に存在していなかったら、その分はすべて地表にあふれ出て、山頂だけがかろうじて海面から顔を出すような世界になっていた可能性があるといいます。地下深くに水が貯蔵されているからこそ、私たちが知る陸と海のバランスが保たれているとも言えそうです。

つながる地表と地下の水の循環

注目すべきもう一つの点は、地下の水と地表の海がまったく無関係ではないという点です。海洋プレートが別のプレートの下にもぐり込む沈み込み帯では、海水を含んだ岩石が一緒にマントルへと運ばれていきます。

運ばれた水は、深さ410〜660kmの遷移層でリングウッダイトに吸収され、長い時間をかけて貯蔵されます。一方で、火山活動やマントル上昇流を通じて、その一部はゆっくりと地表へ戻ってきます。何百万年というスケールで見れば、地球の水は地表と地下を行き来しながら、海面の高さを大きく変えないよう調整されていることになります。

このような「拡張された水の循環」は、日本列島とも無関係ではありません。日本周辺は世界有数の沈み込み帯であり、地震や火山活動が活発な地域です。地表で起きる地震や噴火の背景に、地下深くで岩石と水がやり取りされているドラマが隠れていると考えると、足元の見え方が少し変わってきます。

記者の視点:地球を「水の惑星」たらしめている縁の下の力

今回の話題を整理してみて改めて感じるのは、地球の特殊さです。火星にはかつて液体の水が存在した証拠があり、月でも極域などで氷の存在が確認されています。それでも、地球のように表層と内部のあいだで水を行き来させる仕組みが何十億年も続いてきた天体は、太陽系の中でも特異な存在だといえます。

その鍵を握るのが、目に見えないリングウッダイトという鉱物だというのは少し意外でもあります。地表の生命にとって不可欠な水が、深さ数百kmの圧力と温度のもとで初めて成り立つ鉱物に支えられているという事実は、地球科学の面白さを象徴しているように思えます。

防災や資源探査の文脈でも、「マントルがどれだけ水を含んでいるか」は地震波の解釈や火山活動の理解に直結します。沈み込み帯の上にある日本にとって、地下の水循環は教科書の話というより、自分たちの生活基盤を支える現実的なテーマだといえます。

足元の海から見えてくる、地球と私たちの新しい関係

地下700kmという、人類がたどり着くことのできない深さで起きている物語は、それでも私たちと無関係ではありません。蛇口から流れる水も、雨も、海も、長い時間で見ればマントルとの間を巡る一つの循環の中にあります。

研究の射程は北米だけにとどまらず、その後も世界各地で、含水リングウッダイトが地球規模で広がっているのか、それとも特定の場所に偏っているのかが調べられてきました。日本周辺のように沈み込み帯が集中する地域での観測が進めば、地震や火山との関係も少しずつ見えてくるはずです。

足元の岩石の中に、海の3倍もの水が静かに眠っている――そんな想像力をかきたてる発見が、地球をより立体的に理解するきっかけになっていくのは間違いなさそうです。