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地震を止める「ブレーキ」が太平洋の海底に、5〜6年周期で繰り返すゴファル断層の謎

地震大国で暮らしていると、「次の大地震はいつ、どれくらいの規模で起きるのか」を気にせざるをえません。地震の発生時期や規模を前もって絞り込むことは、地震研究の長年の夢でもあります。今回、太平洋の海底深くに、地震の広がりを「途中で止める」自然のブレーキが見つかったという研究が発表されました。海外メディアのThe Daily Galaxyが「太平洋の海底に巨大地震を止める隠れた『ブレーキ』を発見」と報じたこの研究を読み解きながら、何が新しいのか、そして日本の地震研究にとってどんな意味があるのかを整理します。

5〜6年ごとに同じ地震が起きる「時計仕掛け」の断層

舞台はエクアドルの西方約1,600km沖、東太平洋海嶺と呼ばれるプレートの「製造ライン」のすぐ近くにあるゴファル変換断層です。海洋プレートが横ずれするタイプのこの断層では、不思議なことに、マグニチュード6前後の地震がほぼ同じ場所で、約5〜6年に1回という規則正しさで繰り返し起きてきました。

普通の断層では地震の発生時期はばらつきますが、ゴファル断層は時計仕掛けのような正確さを示します。さらに、エネルギーが十分に溜まっていそうに見えても、マグニチュード7を超えるような巨大地震には成長しにくいと考えられてきました。何かがブレーキをかけているのではないか、というのが研究者たちの大きな問いでした。

研究チームを率いたのは、インディアナ大学ブルーミントン校のJianhua Gong(ジアンファ・ゴン)氏です。ウッズホール海洋研究所(WHOI)、スクリプス海洋研究所、米地質調査所などとの国際共同チームが、長期間の海底観測データを丹念に解析しました。

バリアゾーンと「膨張強化」が地震を抑える仕組み

研究グループは、ゴファル断層を海底地震計を使って2008年と2019〜2022年に観測し、合計で数万件にも上る微小地震を捉えました。マグニチュード6級地震の前と後で、断層のどこがどう動いたのかを詳しく比べることができたのです。

その結果見えてきたのが、断層の途中にある「バリアゾーン」の存在です。

バリアゾーンとは何か

  • 断層が一直線ではなく、100〜400メートルだけずれた複数の枝に枝分かれしている領域
  • 岩石が細かく割れていて隙間が多く、そこに海水がしみ込んでいる
  • 普段は小さな地震が群発的に起きているが、M6級地震の直後はぴたりと静かになる

「膨張強化」で破壊が止まる

地震が起きると、断層がすばやくずれるため岩石内部の隙間(孔隙)が急に広がります。水の量はすぐには増えないので、隙間あたりの水の圧力(孔隙圧力)は一気に下がります。すると岩石同士の押しつけ合う力が増し、摩擦が強くなって滑りにくくなる——これが膨張強化と呼ばれる現象です。

研究チームは、このバリアゾーンが地震破壊の前線にブレーキをかけ、ゴファル断層の地震を「マグニチュード6級」にとどめている主因だと提案しています。

ゴファル断層と日本の地震、似ているところと違うところ

「太平洋の真ん中の話なら、日本にはあまり関係なさそう」と思うかもしれません。ですが、断層の中で水がどうふるまうかという視点は、日本の地震研究にも深く関わっています。

比較項目 ゴファル変換断層 日本周辺の代表的な断層
断層の種類 海洋プレートが横ずれする変換断層 プレートが沈み込む海溝型/陸上の活断層
想定される地震 マグニチュード6前後で頭打ち マグニチュード8〜9の巨大地震も発生
主な研究関心 なぜ大きくならないか どこで何が止め、どこで何が止まらないか

日本でも、筑波大学などのチームが2016年の大西洋ロマンシェ地震や2020年のカリブ海地震を波形解析し、トランスフォーム断層がときに「ブーメラン」のように方向を変えて伝わるなど、複雑なふるまいをすることを明らかにしてきました。今回の研究は、その仲間に「途中で止まるパターン」を加えた格好です。

地震が止まる場所と止まらない場所の違いを物理的に説明できれば、海溝型地震や活断層型地震の予測にも応用できる可能性があります。「地震本部によるトランスフォーム断層の解説」とあわせて読むと、海洋の断層研究がどう積み重なってきたのかが見えてきます。

記者の視点:海底地震計の長期観測こそが「次の予測」をつくる

注目したいのは、今回の成果が特別な新装置ではなく、長期の海底観測の積み重ねから生まれた点です。海底地震計を10年以上にわたって繰り返し設置し、大地震の「前後」を観測できたからこそ、バリアゾーンの挙動が見えてきました。

日本周辺では、海洋研究開発機構(JAMSTEC)や防災科学技術研究所が、南海トラフ沿いに海底地震計と海底圧力計を稠密に並べたDONETなどの観測網を運用しています。今回ゴファル断層で示された「流体圧の変化が地震破壊を止めうる」というモデルは、こうしたシステムで集めたデータの解釈にも新しい切り口を与えてくれるはずです。

地震の発生時刻や規模を正確に予測することは、現時点では困難です。それでも、「どこで地震破壊が大きく広がらないか」を物理的に説明できるようになれば、巨大地震の最大規模を推定するハザード評価の精度向上にも、将来的に役立つかもしれません。地味に見える海底観測こそが、防災の未来を支える土台なのだと改めて感じます。

海の底から始まる地震学のアップデート

今回の発見は、太平洋の片隅にある特殊な断層の話ではなく、世界中の海底断層、ひいては地殻の中で水が果たす役割を見直すきっかけになりそうです。水の通り道がどこにあるか、どこで圧力が下がりやすいか——これらをマッピングする研究は、これから一気に活発化するでしょう。

日本に住む私たちにとっては、明日の地震が止まる保証にはなりません。しかし、地震がどこで「止まるか」を理解する科学が前に進めば、避けられないリスクに正しく備える知恵も増えていきます。海の底から届いた小さな揺れの記録が、地震との付き合い方を少しずつ前向きに変えていくはずです。