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地球の外核に異変、太平洋の地下で2010年に始まった逆流の謎

スマートフォンの地図アプリで北を示す矢印を見るとき、その裏側では地球の内部から発せられる磁場が静かに働いています。私たちの足元、約2,900km下から広がる外核では液体の鉄が動き続け、コンパスを動かし、太陽風から地球を守る盾を生み出しているのです。ところが、その「地球の発電機」とも呼ばれる場所で、2010年に予想外のことが起きていたことがわかってきました。海外メディアのPhys.orgが「太平洋の下にある地球の外核が2010年に方向を逆転、衛星データが明らかに」と報じた研究は、4つの衛星ミッションが28年にわたって積み重ねた地磁気の観測から、地球深部の流れが突如として向きを変えた様子を描き出しました。今回はこの研究の中身と、私たちの暮らしへの意味を読み解きます。

太平洋の下で起きた「逆流」とは

地球の内部は、表面に近い地殻、その下のマントル、深さ約2,900kmから始まる外核、そして中心の内核に分かれています。外核は溶けた鉄を主成分とする液体の層で、ゆっくりと対流しています。この鉄の流れが電流を生み、地磁気をつくる仕組みは「ジオダイナモ」と呼ばれます。

これまでの観測では、外核の液体は赤道付近で全体的にゆるやかに西へ流れている、というのが定説でした。ところが今回の研究によると、赤道直下の太平洋の下で起きていたのは、その逆の動きだったといいます。2010年ごろを境に、それまで弱く西向きに流れていた一帯が、強く東向きに流れる状態へと切り替わったのです。

研究の筆頭著者は「太平洋の下で起きた大規模な流れの逆転は、地球深部のふるまいについて新しい問いを投げかける」と述べています。地球深部の流れは直接観測できず、変化の原因や持続性を見極めるには長期の観測データが欠かせません。この逆転が一時的な揺らぎなのか、長い周期の振動なのか、それとも新しい安定状態への移行なのか、まだ誰にも分かっていないのが現状です。

4つの衛星ミッションが28年分のデータでとらえた

地球の外核を直接見ることはできません。最も深い掘削記録でも、地球の半径の0.2%程度の深さで止まっています。そこで研究チームは、地表で観測できる地磁気の細かな変化を手がかりに、深部の動きを逆算する手法を使いました。

データを提供したのは、次の4つの地磁気観測衛星です。

  • 欧州宇宙機関(ESA)のSwarm:2013年に3機編隊で打ち上げられ、外核から電離圏までの磁気信号を精密に測定
  • ESAのCryoSat:本来は極域の氷を観測する衛星だが、地磁気データも取得
  • ドイツのCHAMP:2000年代を支えた地磁気・重力場観測衛星
  • デンマークのØrsted:1999年に打ち上げられた草分け的なミッション

これらを組み合わせ、1997年から2025年までの28年間の磁場変動を解析しました。今回の主役であるSwarm)は、地球の核から電離圏、太陽活動の影響まで幅広い自然プロセスを調べるために設計された大型ミッションで、長期データの蓄積が今回の発見を支えました。

興味深いのは、東向きの流れが2020年ごろから少しずつ弱まっていることです。研究チームはこの動きが振り子のように振動している可能性に注目しており、外核の流れと、地震波の解析で示唆されてきた内核の回転変化との関連も新たな研究テーマに浮かびつつあります。

記者の視点:ナビゲーションや宇宙天気にどう関わるか

外核の流れが少し変わるだけで、私たちの暮らしに何か影響があるのでしょうか。直感的にはピンと来にくいかもしれませんが、地磁気はナビゲーション、航空機の北極周辺ルート、人工衛星の運用、そして太陽嵐への備えに広く関わっています。

たとえば飛行機が北極上空を飛ぶときには、地磁気の正確な地図が欠かせません。地磁気が時間とともにずれていく速度や方向が変われば、地図の更新頻度を上げる必要が出てきます。スマートフォンの方位センサーも、最終的にはこうした地磁気モデルに支えられています。

さらに気になるのは、地震波の解析が示し始めている別の異変との関係です。日本でも報じられた「内核の回転が止まり、逆回転に転じる可能性」という議論は、地球深部の運動が長期的に変化している可能性を考えるうえで重要な手がかりになります。地球内部はマントル、外核、内核がゆるくつながった一つのシステムです。今回の太平洋の外核の逆転と内核の回転変化をつなぐ仕組みが解明されれば、地磁気がゆっくり弱まっている現象や、長期的な磁場変動の理解にもつながるかもしれません。

「次の異変」を見届ける日本の役割

日本は地震研究で世界をリードしてきた国であり、地球深部観測のノウハウを多く持っています。JAMSTECは2010年に外核の中で鉄の流れが帯状になる新パターンをスーパーコンピュータで示しており、観測と理論の両面で蓄積があります。

今回の太平洋の下で起きた逆転は、日本のすぐ東にある海域の話でもあります。地磁気観測点や海底地震計のネットワークを長期で維持する重要性が、改めて浮かび上がります。地球の核は手の届かない遠い場所のようでいて、コンパスや位置情報サービスを介して、私たちの日常と地続きの存在です。次の「異変」を見逃さないために、空からの衛星観測と、地上・海底からの粘り強い計測の両輪を回し続けることが、これからますます求められそうです。