夜空に横たわる白い光の帯、天の川。日本でも七夕の物語で親しまれてきた身近な存在ですが、その正体は直径約10万光年に及ぶ巨大な銀河です。実はこの天の川銀河、はるか昔に別の小さな銀河を「食べて」大きくなってきたことが分かっています。今回、新たな「食事の痕跡」が見つかったというニュースが報じられました。「天の川銀河が別の銀河を飲み込んでいた──科学者が「残りかす」を発見」によると、約100億年前に飲み込まれた古代の矮小銀河の存在が浮かび上がってきたのです。
「ロキ」と名付けられた古代の矮小銀河
研究チームが発見したのは、銀河円盤のすぐ近くに集まる20個の風変わりな星々です。これらの星は100億年以上前に誕生したと考えられ、地球から約7,000光年の距離に位置しています。化学組成が互いによく似ていることから、いずれも同じ起源を持つ可能性が高いとされました。
研究チームはこの星々の出所となった矮小銀河を「ロキ」と名付けました。北欧神話に登場するいたずら好きな神の名にちなんだもので、命名の理由について研究者は「その正体は神話の神と同じくらい捉えどころがなく、解明に苦労した」と説明しています。今回の研究成果は、英国王立天文学会月報に掲載されました。
金属欠乏星から読み解く銀河の食事履歴
天の川銀河は約120億年前から多くの矮小銀河と合体を繰り返し、現在の1,000億〜4,000億個の星を抱える姿に成長しました。その「食事履歴」を解き明かす鍵が、超金属欠乏星と呼ばれる古い星です。
宇宙最初期の星は、ほぼ水素とヘリウムでできており、それらの内部で重い元素が作られました。重い元素をほとんど含まない星は、まさに宇宙が若かった時代の生き残りなのです。
観測を支えた2つの望遠鏡
研究チームはまず、欧州宇宙機関のガイア宇宙望遠鏡が収集した、約20億個に及ぶ星の位置や動きのデータを使いました。続いてハワイ・マウナケアにあるカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡の高解像度分光器による分光観測で詳細な化学組成を調べ、20個の超金属欠乏星を特定したのです。
特に興味深いのは星々の動き方です。11個は銀河円盤と同じ方向(順行)に、9個は逆方向(逆行)に動いていました。研究チームはこの一見ばらばらに見える動きこそが、天の川銀河がまだ若く現在ほど大きく成長していなかった時代──ビッグバンから約30億〜40億年後──の合体イベントの証拠だと指摘しています。
銀河の「成長」を書き換える可能性
過去に知られている大きな合体イベントとして、約80億〜100億年前の「ガイア・ソーセージ・エンケラドス」との合体があります。シカゴ大学の専門家は「これが、初期の乱れた状態から、現在のような安定した円盤構造へ移行するきっかけになった」と説明します。
今回の研究は、ロキとの合体も天の川銀河の成長史に大きな影響を与えた可能性を示しています。もし事実なら、天の川銀河の成り立ちには「これまで見落とされてきた大事な章」が存在することになります。一方で、別々の合体イベントから来た星々がたまたま似た特徴を持っているだけかもしれない、という慎重な見方もあります。
記者の視点:宇宙の歴史を書き換える小さな手がかり
たった20個の星から100億年前の銀河合体を再構築できるという点に、現代天文学の凄みを感じます。こうした研究は地層から太古の生物を読み解く古生物学に似ており、「銀河考古学」と呼ばれています。
日本の研究者や観測施設も、この分野に深く関わっています。すばる望遠鏡などの日本の観測装置や、東京大学などの研究機関は、金属欠乏星の研究で世界的に重要な貢献をしてきました。ガイアのデータと地上望遠鏡による分光観測を組み合わせる手法は、今後さらに多くの「失われた銀河」の物語を明らかにしていく可能性があります。
ロキの実在確認はこれから
ロキの存在を確かめるには、より広範な観測データと独立した検証が必要になります。研究者たち自身も「より大きなデータセットでロキの実在を検証する研究が出てくるだろう」と語っています。
私たちが何気なく見上げている夜空には、何十億年もの時を経た「銀河の記憶」が刻まれています。ロキの物語が本物だと確認される日が来れば、私たちは自分たちの故郷である天の川銀河のルーツを、また少しだけ深く知ることができるはずです。
