スマホやPCで気に入って買ったゲームが、ある日突然「サービス終了」のお知らせと共に二度と遊べなくなる——そんな経験を、すでに何人ものゲーマーが味わっています。米国カリフォルニア州議会下院が2026年5月、この問題に切り込む法案を可決しました。「『Stop Killing Games』法案がカリフォルニア州議会で可決」と題された記事から、ゲーム業界の慣行を揺るがしかねないこの動きを読み解きます。
賛成43・反対16で下院通過、何が決まったのか
可決されたのは「Protect Our Games Act(ゲーム保護法、AB1921)」と呼ばれる法案で、賛成43・反対16という大きな差で下院を通過しました。あとは州上院の承認を経れば、2027年1月1日以降に発売または再販されるゲームに対して適用されます。
法案の柱は次の3つです。
- パブリッシャーがサービスを終了する場合、60日前までに利用者へ通知すること
- 一度販売したゲームは、何らかの形で遊べる状態を維持すること(シングルプレイヤーモードを残す、もしくは有志によるサーバー運用を認める、など)
- 対象は有料で販売されたゲームのみで、基本プレイ無料(F2P)のタイトルは除外
ポイントは「プレイヤーがお金を払って手に入れたゲームを、ある日勝手に奪わない」という消費者保護の発想です。これまでオンライン要素を含むゲームは、サーバーが止まればたとえパッケージ版を持っていても遊べなくなる例が珍しくありませんでした。
引き金になった『The Crew』停止事件
この運動が大きくなった直接のきっかけは、フランスの大手Ubisoftが2024年に起こした『The Crew』のサービス停止です。2014年に発売されたオープンワールドのレーシングゲームで、世界中に多くのファンを持っていました。
しかしUbisoftはサーバーを止めただけでなく、オフラインの単独プレイすら不可能にしたうえ、購入済みプレイヤーのライブラリからもタイトルを消し去りました。「ゲームを買った」のではなく「遊ぶ権利を借りていただけだった」という事実が突きつけられ、消費者の不満が一気に噴き出したのです。
この問題を世界的な議論へと押し上げたのが、YouTuberのスコット・ロスさんでした。「Accursed Farms」というチャンネル名で活動する彼は、古いPCゲームの保全に取り組んできた人物で、Stop Killing Games運動を立ち上げて署名や立法働きかけを進めました。本人は2025年に運動の主導役を退きましたが、必要に応じて議会証言などに協力する立場を続けています。
業界団体は強く反対、欧州にも波及
法案に最も強く反対しているのが、米国のゲーム業界団体「エンターテインメント・ソフトウェア協会(ESA)」です。ESAには任天堂、ソニー・インタラクティブエンタテインメント、Activision Blizzard、エレクトロニック・アーツなど名だたる大手が加盟しており、業界全体の意向を代弁する立場にあります。
業界側の懸念は、サービス維持コストの上昇や、開発元が倒産した場合のサーバーやコードの取り扱いといった現実的な問題です。一方で、欧州でも似た動きが進んでおり、欧州議会の公聴会では「子ども向けに賭博的な仕組みを盛り込んだゲーム」への規制強化など、消費者保護寄りの議論が活発になっています。EUでは市民イニシアチブの署名が100万人を超え、政策決定の俎上に乗っているのも特徴です。
つまり今回のカリフォルニアの一手は、世界規模で進む「ゲーム所有権」をめぐる潮流の一部と言えます。
記者の視点:日本のゲーム企業も無関係ではいられない
ここで気になるのが日本のゲーム業界への影響です。任天堂やソニー・インタラクティブエンタテインメントは米国カリフォルニア州に主要拠点を構えており、上院も通過すれば、これらの企業も法案の対象になります。
特に影響が大きそうなのは、
- 期間限定で運営されるオンラインRPGや基本プレイ有料のスマホ移植タイトル
- いわゆる「ライブサービス型」と呼ばれる、常時オンライン接続を前提としたゲーム
といったジャンルです。日本国内のユーザー目線でも、過去に「気に入っていた家庭用ゲーム機のオンラインサービスが終了し、追加コンテンツが手に入らなくなった」苦い経験を持つ人は多いはず。法案が成立すれば、世界市場で売るゲームの設計思想そのものを見直す必要が出てきます。
ゲームを「サービス」として売るのか、「商品」として売るのか。今回の法案は、その境界線を引き直そうとする試みでもあるのです。
デジタル時代の「買う」が変わるかもしれない節目
『Stop Killing Games』運動は当初、ニッチなゲーマーの声に過ぎませんでした。それがカリフォルニア州議会下院を動かすまでに育ったのは、デジタル時代における「所有」の意味を問い直す共感が広がっているからでしょう。
上院での審議や業界の巻き返しなど、決着にはまだ時間がかかります。それでも、サブスクリプションや配信サービスが当たり前になった今だからこそ、「自分で買ったものを、自分のペースで遊び続けられる権利」は、ゲームに限らずデジタルコンテンツ全体の重要な論点になっていきそうです。お気に入りのタイトルを長く遊びたい人にとって、これは追いかけておきたい動きと言えるはずです。
