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ありふれた太陽光を紫外線に変える固体材料、九州大が14年かけ実現

晴れた日に窓から差し込む、ごくありふれた太陽の光。その「目に見える光」を、エネルギーの高い「紫外線」に変えてしまう固体の材料を、九州大学の研究チームが作り上げました。海外メディアも「ありふれた太陽光を紫外線に変えるエネルギー分野の大きな進歩」と報じたこの成果は、特別な強い光源を必要とせず、ふつうの日差しだけで働く点が画期的です。なぜ「光を作り変える」ことがエネルギー問題の解決につながるのか、その仕組みと可能性を見ていきましょう。

弱い太陽光を「足し算」して紫外線に変える

私たちが普段「光」と呼んでいるものには、たくさんの種類があります。虹の七色のような目に見える光(可視光)よりも、波長が短くエネルギーの高い光が紫外線です。紫外線は化学反応を強く引き起こす力を持っているため、産業の現場で重宝されます。

今回の研究の核心は、フォトン・アップコンバージョンと呼ばれる技術にあります。これは、エネルギーの低い光を、エネルギーの高い光へと「格上げ」する仕組みのことです。研究チームは、目に見える光を2つ分受け取り、そのエネルギーを足し合わせて、1つの紫外線として放出させることに成功しました。

この「足し算」を担うのが、三重項-三重項消滅(TTA)と呼ばれる現象です。光を吸収した分子から別の分子へエネルギーが移り、エネルギーをためこんだ2つの分子が出会うと、より高いエネルギーの光が一つ生まれます。今回の材料は、太陽光と同じくらいの弱い光でもこの反応が進むのが大きな特徴です。

固体で実現したことの何がすごいのか

これまで、こうした光の変換は液体の溶液の中で行われることが多く、実用化には扱いにくさが課題でした。研究チームは、これを固体の材料として実現しました。固体であれば、装置に組み込みやすく、長く安定して使えます。

成功の鍵は、分子どうしの「すき間」を精密に設計したことです。分子をぎゅうぎゅうに詰めると光る効率は落ちてしまい、逆に離しすぎるとエネルギーがうまく渡りません。研究チームは分子に枝のような構造を取り付けることで、ちょうどよい間隔を保ち、「よく光ること」と「エネルギーをうまく渡すこと」を両立させました。

その結果、固体のままでも光る効率(蛍光量子収率)は60%を超え、可視光から紫外光への変換効率は1.9%に達しました。数字だけ見ると小さく感じるかもしれませんが、太陽光レベルの弱い光でここまで変換できる点は、高い水準の成果といえます。

環境浄化や水素づくりへの応用

この技術が注目されるのは、地球規模の課題に直結しているからです。研究チームや海外メディアは、次のような応用先を挙げています。

  • 光触媒による環境浄化や、太陽光を使った水素の製造
  • 室内の空気をきれいにする装置
  • 弱い光でも動く3D印刷(光で樹脂を固める方式)

特に期待されているのが光触媒との組み合わせです。光触媒は紫外線を当てると、汚れた水や空気を分解したり、水から水素を取り出したりできます。しかし、太陽光に含まれる紫外線はごくわずかしかありません。そこで、豊富にある可視光を紫外線に変えてやれば、太陽の光をより無駄なく使えるようになる、というわけです。

この材料は安価な原料から比較的簡単に作れるとされ、研究チームはすでに特許を出願しています。

記者の視点:14年の地道な研究が結実した瞬間

この成果でぜひ知ってほしいのが、その背景にある時間の重みです。研究チームを率いた教授がこのテーマに取り組み始めたのは2012年。完成までに14年以上の歳月がかかりました。しかも論文がまとめられたのは、その教授が大学を退職するわずか11日前だったといいます。大学院生たちが集中して研究を仕上げた、長年の積み重ねが結実した成果です。

日本のエネルギー研究にとっても、この成果は心強いものです。日本は資源が乏しく、太陽光をどれだけ有効に使えるかが脱炭素社会の鍵を握ります。可視光を紫外線に変えて光触媒の効率を高める発想は、太陽光をエネルギーへ変える新しい入り口になりえます。海の向こうの巨大プロジェクトではなく、国内の地道な基礎研究から生まれた点に、日本の科学の底力を感じます。

太陽の光を、もっと賢く使う未来へ

私たちは毎日、太陽から膨大な光を受け取っています。しかし、その多くはエネルギーとして使われないまま地面を温めて終わっています。今回の固体材料は、これまで活かしきれなかった可視光を、化学反応を起こせる紫外線へと作り変える小さな一歩です。

変換効率1.9%という数字は、これから改良が進む出発点にすぎません。詳しい仕組みは九州大学の研究成果のページでも公開されています。ありふれた日差しが、空気をきれいにし、水素を生み出すエネルギー源になる。そんな未来が、福岡の研究室から少しずつ現実に近づいています。