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ワタリガラスはオオカミを追わない、狩り場を記憶し先回りする賢さ

街中でゴミ捨て場を器用にあさるカラスを見て、「頭がいい鳥だな」と感じたことはないでしょうか。実はその賢さは、私たちの想像をはるかに超えていたのかもしれません。海外メディアが報じた「科学者はカラスがエサ目当てにオオカミを追っていると考えていた。それは間違いだった。カラスはオオカミを予測していた」という記事によると、大型のカラスであるワタリガラスは、オオカミの後をついて回るのではなく、獲物が倒される場所を前もって予測し、そこへ直接飛んでいくことがわかりました。この記事では、GPS追跡が明かした驚きの行動戦略と、その背後にある高い知能について紹介します。

「おこぼれ狙い」という常識がくつがえった

長い間、生物学者たちはワタリガラスの行動をシンプルにとらえていました。オオカミの群れの後をずっとついて回り、狩りが成功したらそのおこぼれにありつく。いわば「便乗型のスカベンジャー(死肉をあさる動物)」だと考えられてきたのです。

ところが、米国のイエローストーン国立公園で行われた大規模な調査が、この常識をくつがえしました。研究チームは2年半にわたり、ワタリガラス69羽、オオカミ20頭、そしてピューマ11頭を追跡し、カラスだけで約64万6千件ものGPS位置情報を集めました。

その結果、ワタリガラスがオオカミを1km以上にわたって1時間以上追い続けた例は、調査期間中でたった1回しか確認されませんでした。つまり、ワタリガラスはオオカミを尾行していたわけではなかったのです。

頭の中に描かれた「狩り場の地図」

では、カラスはどうやって効率よくエサにありついていたのでしょうか。答えは、優れた空間記憶にありました。

ワタリガラスは、過去にオオカミの狩りが成功しやすかった場所を覚えていて、そこへ狙いを定めて飛んでいたのです。1日に最大155kmも移動して、獲物が集まりやすい「狩り場」へ一直線に向かうこともありました。研究者によれば、6時間飛び続けて狩りの現場へまっすぐ向かう例もあったといいます。

興味深いのは、その狩り場に地形の共通点があったことです。オオカミは、川の近くにある平らで雪に覆われた谷など、開けた場所で獲物を追い詰める傾向があります。カラスはこうした「獲物が倒れやすい地形」を学習していました。

さらにカラスは、こうした有望な場所を15日から363日までのさまざまな間隔で見回っていました。まるで頭の中に狩り場の地図を描き、定期的に「巡回」しているかのような行動です。

オオカミとピューマ、選ばれたのはどっち

同じ肉食動物でも、ワタリガラスはオオカミとピューマで態度を変えていました。数字がそれをはっきり示しています。

捕食者 獲物の場所に7日以内に到達できた割合
オオカミ 48.5%
ピューマ 24.8%

カラスはオオカミの獲物には約半分の確率でありつけた一方、ピューマの獲物には4分の1しかたどり着けませんでした。理由は狩りのスタイルの違いにあります。オオカミが開けた場所で獲物を仕留めるのに対し、ピューマは森の中で獲物を倒し、それを隠してしまいます。見つけにくい相手より、見つけやすい相手を選ぶ。ここにもカラスの合理的な判断が表れています。

記者の視点:類人猿を思わせる「先を読む力」

今回の研究がとりわけ重要なのは、ワタリガラスの知能を新たな角度から示した点です。

これまでカラスの賢さといえば、エサを隠して後で取り出す「貯食」や、仲間の行動から学ぶ「社会的学習」がよく知られていました。しかし今回明らかになったのは、広い風景全体をとらえて先を読む「予測的な推論」です。これは、これまでチンパンジーなどの類人猿で報告されてきた計画能力によく似ています。

研究者の一人は「誰もカラスを主役に置いて考えてこなかった。スカベンジャーの視点に立ってこなかったから、カラスに何ができるのかを私たちは知らなかった」と語っています。動物の知能を測るとき、私たちは無意識に人間や霊長類を基準にしがちです。しかし視点を変えれば、身近な鳥がこれほど高度な能力を持っていたことに気づかされます。

日本の街中にいるハシブトガラスやハシボソガラスも、ゴミ収集日を覚えていたり、車にクルミを割らせたりと、驚くほど賢い行動を見せます。今回の発見は、そうした身近な鳥の知能を見直すきっかけにもなりそうです。

身近な鳥が教えてくれる知能の奥深さ

ワタリガラスは、力の強い捕食者に頼りきりだったわけではありませんでした。過去の経験から狩り場を学び、地形を読み、遠く離れた場所へ先回りする。その姿は、私たちが思い描く「鳥」のイメージをはるかに超えています。

動物の行動を人間の物差しだけで測っていると、こうした本当の賢さを見落としてしまうのかもしれません。次にカラスを見かけたら、その黒い目の奥で、どんな地図が描かれているのか想像してみると、いつもの散歩道が少し違って見えてくるはずです。