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iCloudプライベートリレーが実IPアドレスを漏らす、約2年続いた穴

毎月いくらか払えば、自分のネット上の居場所を隠せる。iPhoneを使う多くの人が、そう信じて有料プランを選んできました。ところが、その「隠しているはず」の住所が、実は何年も外に漏れ続けていたとしたらどうでしょう。「Appleの『プライベートリレー』がユーザーの実IPアドレスを漏らしていた」という報告が、多くのiPhoneユーザーに冷や汗をかかせています。しかも、この穴に気づいた人はほとんどいませんでした。画面には何の変化も起きなかったからです。

「隠しているはず」が隠せていない

iCloudプライベートリレーは、Appleが有料プラン「iCloud+」で提供する機能です。Safariの通信を2つの中継サーバー経由で送ることで、閲覧先のサイトにも通信会社にも、あなたの本当のIPアドレスを知られないようにする、という触れ込みでした。IPアドレスは、インターネット上での住所のような番号で、おおよその居場所や使っている回線を推定する手がかりになります。

問題を公表したのは、iOSのプライバシーを長年追い続けてきた研究者チームです。彼らが見つけたのは、通信を中継ルートの外へこっそり逃がしてしまう、WebKitの3つの機能でした。WebKitとは、SafariをはじめApple製の端末で多くのブラウザが使う、Web表示の土台となる技術です。ここに穴があると、影響は一つのアプリでは済みません。

パスキーを装うだけで、住所が筒抜けに

3つのうち、最も深刻なのがログイン技術の「パスキー」にまつわるものです。パスキーは、パスワードの代わりに指紋や顔認証で安全にログインする仕組みで、近年あちこちのサイトが対応を進めています。

ところが、サイトがパスキーに対応していると示すだけで、iPhoneはその確認のための通信を、Safariのプライベートリレー経由ではなく、端末側の認証サービスから直接送ってしまいます。この通信は中継ルートを通りません。結果として、あなたの本当のIPアドレスが、そのまま相手のサーバーに届いてしまうのです。しかも、実際にパスキーでログインする必要はありません。対応している「ふり」をするだけで、画面には何の合図も出ないまま、住所を抜き取れてしまいます。

さらに厄介なのは、この穴が2024年9月に配信されたiOS 18.0のころから、約2年間も開いたままだったという点です。悪意あるサイトに限らず、パスキーに対応した「普通のサイト」の多くが、知らないうちに利用者の実IPを受け取っていた可能性があります。

Safariだけの問題ではない

「Safariを使わなければいい」と思ったかもしれません。しかし、話はそう単純ではないのです。iOSやiPadOSでは、ChromeやFirefox、Edge、Braveなど多くのブラウザが、中身はWebKitを土台にしています。つまり、iPhoneやiPad上のブラウザの多くが、同じ穴を抱えていることになります。

影響は匿名性を重んじる人ほど大きくなります。研究者によれば、匿名通信網Torを使うOnionBrowserや、彼ら自身が開発したプライバシー特化型ブラウザでも、同じ理由でIPが漏れる場合があるといいます。素性を隠す必要がある人にとって、これは軽視できない話です。残る2つは、リンク先の名前解決を先回りして行うDNSプリフェッチと、ブラウザとサーバーの間で低遅延の通信を行うWebTransportに関する問題です。いずれも中継ルートを迂回して端末から直接つながってしまう点は共通しています。

記者の視点:有料機能への信頼が招く油断

この一件が突きつけるのは、「有料だから安心」という思い込みの危うさです。日本でも、iCloud+を契約し、プライベートリレーを何気なくオンにしている人は少なくないでしょう。守られていると信じていた分だけ、油断が生まれます。無防備な状態よりも、むしろたちが悪いとも言えます。

Appleは報告を受け、対応を計画していると回答し、修正は2026年秋の見込みとされています。ただ、過去に本当のメールアドレスを隠す「メールを非公開」機能で見つかった不具合は、修正まで約1年かかった経緯があります。今回もすぐに直るとは限らない、という不安が残ります。

完全に直るまで、自分の身は自分で守る

心配な人ができることは、いくつかあります。まず、素性を強く隠したい場面では、プライベートリレーだけに頼らず、信頼できるVPNを併用すると、この漏れはおおむね防げるとされています。研究者は自分のIPが漏れていないか確かめられる検証サイトも公開しており、気になる人は試してみる価値があります。

大切なのは、便利さの裏側に目を向ける習慣です。プライバシーを守る機能そのものは、決して無意味ではありません。だからこそ、その機能が本当に働いているのかを時々立ち止まって確かめる。今回のニュースは、そんな当たり前の姿勢を思い出させてくれる出来事なのだと思います。