宝石店のショーケースで輝くダイヤモンドは、地球上でもっとも硬く、もっとも壊れにくい物質として知られています。ところが太陽系の外側では、そのダイヤモンドが雨のように降りそそぐ惑星があると考えられてきました。天王星と海王星です。あまりに現実離れした話に聞こえますが、この現象は長いあいだ理論の上だけの存在で、実験室で正面から確かめるのは難しいものでした。米国の研究チームが「科学者がダイヤモンドを溶かし、氷惑星の秘密を解き明かした」という実験を発表し、その謎に一歩踏み込みました。ダイヤを溶かすという乱暴にも思える手段で、いったい何がわかったのでしょうか。
ダイヤを一瞬で溶かす実験
実験を行ったのは、高圧物理の研究で知られるローレンス・リバモア国立研究所の研究チームです。舞台となったのは、ロチェスター大学にある強力なレーザー装置「オメガレーザー施設」でした。
研究チームは、ダイヤモンドの小さな試料に極めて短いレーザーを撃ち込みました。すると衝撃波が発生し、試料は一瞬で押しつぶされます。このとき生まれた圧力は地球の中心をしのぐほどで、温度は太陽の表面に匹敵する約5,500度に達しました。ただし、この過酷な状態が続いたのはわずか10億分の1秒という、まばたきよりもはるかに短い時間です。
なぜこんな極端な状態をつくる必要があったのでしょうか。それは、天王星や海王星の奥深く、深部で起きていることを地上で再現するためです。巨大な惑星の内部は、外からのぞくことができません。そこで研究者たちは、ほんの一瞬だけ同じ環境を実験室につくり出し、そこで物質がどう振る舞うかを観察するという方法を選びました。
20年来のずれを埋めた
今回の実験には、もう一つ大きな狙いがありました。ダイヤモンドが溶ける温度、つまり融点をめぐる長年の食い違いを解決することです。
ダイヤモンドがどれくらいの高温で溶けるのかは、過去の実験で測られた値と、量子力学にもとづく理論の予測とのあいだに約1,000度もの開きがありました。この差はおよそ20年ものあいだ埋まらず、研究者を悩ませてきました。理論が間違っているのか、それとも測定の精度に問題があるのか、はっきりしなかったのです。
研究チームは、X線を物質に当てて原子の並び方を読み取る「X線回折」という手法で、溶けていく瞬間のダイヤモンドを精密にとらえました。その結果、新たに得られた測定値は現代の理論予測ときれいに一致することが確かめられました。長年のずれは、今回の高精度な測定によって、従来の測定値のほうに誤差があったことが明らかになったのです。物質の基本的な性質について、教科書の一行がより確かなものになったといえます。
なぜダイヤは「降る」のか
実験からは、意外な発見も生まれました。極端な高温高圧のもとでは、固体のダイヤモンドのほうが、金属状態になった液体の炭素よりも密度が低い、つまり軽くなるというのです。
これは一見、地味な話に思えるかもしれません。しかし、この密度の関係こそが、氷惑星の内部で炭素がどう振る舞うかを読み解く鍵になります。氷惑星の深部では、炭素が液体の層をつくっていると考えられています。そこで生まれるダイヤモンドは、単純にそのまま沈むとは限りません。圧力や温度、周囲の物質の組成が場所ごとに変われば、炭素が固まったり再び溶けたりしながら、少しずつ核へ向かって分かれていくと見られています。「ダイヤモンドの雨」は、こうした内部のふるまいを説明するために描かれてきたモデルであり、今回の精密な融解データはそのモデルをより現実に近づける手がかりとなりました。
さらに興味深いのは、この炭素の移動が惑星の「体温」に関わっている可能性です。海王星は、太陽から受け取る以上の熱を宇宙に放っていることが知られており、その理由は長らく謎でした。重い成分が中心へ沈むときに解放される重力のエネルギーが、この余分な熱の一部を生んでいるのではないかと議論されています。惑星の奥深くで静かに進む物質の選り分けが、星をあたためているのかもしれません。
日本では天王星や海王星のダイヤモンドの雨について、過去にもPET樹脂やX線レーザーを使った再現実験が紹介されてきました。今回は、ダイヤそのものを溶かして条件を精密に測った点で一歩進んだ成果といえます。
記者の視点:宇宙の話が核融合につながる
この研究は、遠い惑星のロマンにとどまりません。研究チームは、同じような衝撃で物質を圧縮する技術が、地上のエネルギー問題にも役立つ可能性を指摘しています。
具体的には、強力なレーザーで燃料を一瞬で押しつぶして核融合を起こす「慣性閉じ込め核融合」という方式です。今回のように衝撃波のかけ方を工夫すれば、燃料のターゲットから得られる核融合エネルギーを最大で3倍にできるかもしれないと研究チームは見ています。ただし、実用的な発電にこぎ着けるには、まだ多くの技術的な課題が残されています。それでも、核融合は次世代のエネルギー源として日本でも研究が進む分野であり、惑星科学の実験がその効率向上のヒントを与えるというのは、基礎研究の面白さそのものです。
一つの実験装置が、はるか彼方の惑星の天気と、私たちの足元のエネルギー問題を同時に照らす。分野の垣根を越えて知識がつながっていく様子が、この成果にはよく表れています。
手のひらの実験が惑星の内側を映す
まばたきより短い一瞬に、地球の中心をしのぐ世界を実験室でつくり出す。その小さな一瞬をていねいに観察することで、人が決して訪れられない惑星の奥深くで何が起きているのかが、少しずつ見えてきました。
「ダイヤが雨のように降る」という現実離れした話は、いまも惑星内部のモデルにもとづく仮説です。それでも今回の実験は、その可能性を確かめるための土台を一段としっかりさせました。夜空に浮かぶ青い惑星の内側で、宝石のような炭素が静かに姿を変え続けているのかもしれません。次に天王星や海王星の名前を聞いたとき、その奥深くの光景を少しだけ具体的に思い描けるようになるはずです。
