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暗黒物質ついに発見か?海底望遠鏡が捉えた宇宙の謎、日本への影響は

皆さんは、宇宙のほとんどが「見えない物質」でできていると聞いたら、どう思いますか? 私たちの周りにある星や銀河は、実は宇宙全体のたった5%に過ぎないと言われています。残りの約27%は「暗黒物質ダークマター」、そして約68%は「暗黒エネルギー」という、謎に包まれた存在なのです。

その「暗黒物質」について、もしかしたら人類史上初めて、その姿を直接捉えたかもしれないという驚くべきニュースが飛び込んできました。地中海の海底に設置された巨大な観測装置が、これまで観測されたことのないほど明るい粒子を捉え、科学者たちはこれが「暗黒物質」の痕跡ではないかと考えているのです。

A Massive Particle Blasted Through Earth and Scientists Think It Might Be The First Detection of Dark Matter - ZME Science

この発見は、宇宙の成り立ちや、私たちが住む世界の根本を理解する上で、非常に大きな一歩となる可能性があります。まるで、長年探し求めていたパズルの最後のピースが見つかるかもしれないような、ワクワクする話です。

海底望遠鏡が捉えた謎の閃光

物語は2023年2月に始まります。地中海の海底に沈められた、欧州の巨大なニュートリノ観測施設「KM3NeT(キュービック・キロメートル・ニュートリノ・テレスコープ)」が、信じられない現象を捉えました。

KM3NeTは、海中に設置されたガラス製の球体センサーが、素粒子が水中の原子に衝突した際に放つかすかな青い光を捉えることで、宇宙から飛来する「ニュートリノ」という素粒子を検出する装置です。ニュートリノは、ほとんどの物質を素通りしてしまう「ゴースト粒子」とも呼ばれる、非常に捉えにくい素粒子ですが、KM3NeTのような特殊な望遠鏡は、そのわずかな痕跡を捉えることができます。

この日、KM3NeTのセンサーは、これまで観測されたどの粒子よりも桁外れに明るい閃光を記録しました。その粒子が持っていたエネルギーは「220ペタ電子ボルト」というとてつもない量でした。この「ペタ電子ボルト」というのはエネルギーの単位で、1ペタ1000兆を意味し、宇宙の現象を測る際に用いられる非常に大きな単位です。参考までに、世界最大の粒子加速器である「大型ハドロン衝突型加速器LHC」が生み出すビームのエネルギーと比べても、およそ100倍もの大きさだというから驚きです。

当初、科学者たちはこの粒子を超高エネルギーの「ニュートリノ」だと考えました。ニュートリノが水中で原子に衝突すると、「ミューオン」という電子よりも重い素粒子が生成され、このミューオンが青い光(チェレンコフ光)を放つのをKM3NeTは検出します。あまりに明るかったため、このミューオンは「不可能なミューオン」というニックネームまでつけられました。

なぜ「暗黒物質」の可能性が浮上したのか

しかし、すぐに一つの疑問が浮かび上がりました。KM3NeTと同じくニュートリノを観測する、南極の氷の下に埋められた巨大な観測施設「IceCube(アイスキューブ)」です。IceCubeKM3NeTよりもはるかに大きく、10年以上の観測データを蓄積しています。もし宇宙のどこかから、これほど強力なニュートリノが地球に飛来しているなら、IceCubeの方が先に、あるいは同様の現象を観測しているはずだと考えられました。しかし、IceCubeからは、この閃光に匹敵するようなデータは何も見つからなかったのです。

この不一致に首をかしげた一部の科学者たちは、ミューオンニュートリノよりも「さらに奇妙な何か」から来ているのではないかと考え始めました。

そして最近、彼らが「arXivアーカイブ)」という論文公開サイトで発表した新しい研究では、この閃光が地球上で初めて検出された「暗黒物質」の兆候である可能性があると提唱しているのです。

暗黒物質は、光や電磁波とほとんど反応しないため、直接見ることはできません。これまで、私たちは銀河の回転速度など、その重力による影響を間接的に観測することで、その存在を知るのみでした。多くの実験が暗黒物質を直接捉えようとしてきましたが、いまだ成功していません。

地球をかすめて飛ぶ「励起暗黒物質

今回の説は、ある種の銀河、「ブレーザー」から始まるというものです。ブレーザーは、中心に超大質量ブラックホールを持つ活動的な銀河核の一種で、光速に近い速度で粒子を噴き出す強力なジェットを放出しています。もしそのジェットに特殊な種類の暗黒物質粒子が含まれていれば、そのビームは何十億年もの間、壊れることなく宇宙を旅することができると考えられています。実際に、今回KM3NeTが捉えた粒子の経路をたどると、いくつかの既知のブレーザーが存在する空の領域を指し示しており、状況証拠としては合致しています。

このビームは、地球の中心に向かってまっすぐ突っ込むのではなく、地表とほぼ同じ角度で横向きに地球の外層をすり抜けて飛んできます。地中海のKM3NeT検出器に到達するためには、それぞれの粒子が地球の地殻と土壌の中を約93マイル(約150キロメートル)もの長い道のりを進む必要があります。

この長い地下の旅の途中で、暗黒物質の粒子が原子核に衝突することがあると、その衝突によって暗黒物質粒子は一時的に「励起(れいき)」された状態になります。これは、一時的にエネルギーを得て、元の状態よりも重くなった「興奮状態」のようなものです。この励起状態は、わずか100万分の1秒以下という瞬きのような時間しか続きません。その後、すぐに2つのミューオン」に崩壊します。この2つのミューオンは、ほぼ完璧に同じ方向へ並んで飛び出すため、KM3NeTのセンサーは、それらを2つの異なる経路として区別することができず、一つの非常に明るい閃光として記録した、というのです。まさにKM3NeT2月に観測したものとぴったり一致します。

一方、IceCubeが何も観測しなかった理由は、その設置場所にあります。南極にあるIceCubeの場合、同じビームはわずか約9マイル(約15キロメートル)の地殻しか通過しません。通過する岩石がはるかに少ないため、暗黒物質が衝突して検出される可能性は大幅に低下します。この単純な「深さの違い」が、KM3NeTが明るい閃光を観測し、IceCubeが静かだった理由を説明できるというわけです。

セントルイスワシントン大学のP. S. ブーパル・デブ氏は、New Scientistに対し、この結果が「暗黒物質を本当にテストする新しい方法を開く」と語っています。適切な条件が揃えば、「これらのニュートリノ望遠鏡を暗黒物質検出器に変えることができる」と指摘しており、宇宙の「失われた質量」を長年探し求める科学界に新たな希望を与えています。

慎重な意見と今後の展望

もちろん、この説には慎重な意見もあります。ウィスコンシン大学マディソン校のダン・フーバー氏は、[New Scientist]に対し、「これはおそらく、単に異常にエネルギーが高い普通のニュートリノだろう」と述べています。彼から見れば、最も単純な答えは、たまたま記録的なエネルギーに達した1機のニュートリノだった、というものです。

カリフォルニア大学アーバイン校のシャーリー・リー氏も、別の課題を指摘します。暗黒物質説は2つの重なり合うミューオンを予測していますが、現在の装置では、これほど極端なエネルギーで2つの経路を区別することはまだ非常に難しいと言います。彼女は「潜在的には検証可能」としつつも、この明るさで2つの経路を再構築するのは非常に困難だと語っています。

しかし、この議論が長く続くことはないでしょう。KM3NeTは現在も建設中であり、今後数年でさらに多くの光センサーが追加される予定です。IceCubeも引き続き同じ空の領域を観測しており、計画されているアップグレードによってその視力はさらに向上します。もしKM3NeTが同じ方向からさらに巨大な閃光を記録し続け、IceCubeが静かなままであれば、暗黒物質の説への確信は高まるでしょう。もし両方の検出器が同様の現象を観測し始めれば、それは超高エネルギーニュートリノ、あるいは別の未知の原因が説明として浮上してくるかもしれません。

宇宙の謎解明に向けた新たな一歩

どちらの結果になったとしても、それは非常に重要な意味を持ちます。もし2例目の同様の現象が確認されれば、それが何であれ、宇宙の加速器が粒子を信じられないほどのエネルギーまで加速できることが明らかになります。そして、もし暗黒物質が確認されれば、それはさらに大きな発見となり、銀河を結びつけている謎の物質について、研究者たちが初めて直接的な手がかりを得ることになります。

現時点では、地中海の海底で放たれた一つの閃光が、物理学における最大の謎の一つを再び開き、世界中の科学者たちに全く新しい追跡の道筋を示してくれました。日本も、岐阜県に建設中の次世代ニュートリノ観測施設「ハイパーカミオカンデ」など、ニュートリノ研究の最前線に立っており、このような宇宙の謎の解明に大きく貢献しています。今回の発見が、宇宙の秘密を解き明かすための新たな扉となるか、今後の観測が世界中の注目を集めることでしょう。