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細胞に「第三の状態」発見!死後も活動?医療への応用と倫理的課題

私たちの体は、生命の終わりとともに活動を停止し、やがて朽ちていくのが自然の摂理とされています。しかし、もし「死んだはずの細胞が、新たな生命の形として活動を再開する」という、常識を覆す現象が起きているとしたら、皆さんはどう感じますか?

まるでSF映画のような話ですが、今、科学の世界では、まさにその「生と死の境界」を問い直す驚きの発見が注目を集めています。それが、生物学における「第三の状態」という概念です。この画期的な研究は、私たちの医療や生命に対する理解を根底から変える可能性を秘めています。

今回は、米国の科学者が発見した、この不思議な「第三の状態」について、詳しく見ていきましょう。

Scientists have discovered 'third state' between life and death - WKRC

死んだ細胞が「新たな機能」を獲得する第三の状態とは?

米国のワシントン大学生物学者ピーター・ノーブル氏とアレックス・ポジトコフ氏は、人気科学雑誌『ポピュラーメカニクスや科学ニュースサイト『ザ・コンバーセーション』で、この「第三の状態」に関する研究について詳しく解説しています。

彼らの研究が明らかにしたのは、驚くべきことに、一度死んだ生物の細胞が、宿主(元の体)の生命活動が停止した後も、新たな機能を発揮し、時には新しい生命体として再編成される可能性があるということです。

「ゼノボット」と「アンスロボット」が示す生命の回復力

この「第三の状態」の具体的な例として、研究者たちは「ゼノボット」「アンスロボット」という、生きた細胞から作られた「バイオボット」と呼ばれる生命体を挙げています。

  • ゼノボット:これは、死んだカエルの胚の皮膚細胞から再構成された、多細胞生物です。タフツ大学の研究チームは、これらの細胞が通常の生物学的役割を超えた新しい行動を示し、自らを再編成して新たな多細胞生物として機能することを発見しました。
  • アンスロボット:こちらは人間の細胞(特に気管支上皮細胞)から作られたバイオボットです。アンスロボットは、まるで小さなロボットのように動き回り、神経細胞の傷を修復するなどの機能を持つことが報告されています。しかし、今回の記事では、アンスロボットも死んだ宿主の細胞から作られているのかについては言及されていません。

研究者たちは、「これらの発見は、細胞システムに本質的に備わる柔軟性(可塑性)を示しており、細胞や生物があらかじめ決められた方法でしか進化できないという考え方に疑問を投げかけるものだ」と述べています。つまり、生物の死が、時間の経過とともに生命が変化する上で重要な役割を果たす可能性がある、というのです。

なぜこのような現象が起きるのか?

この「第三の状態」が起きる根本的な理由はまだ謎に包まれていますが、有力な仮説の一つに、細胞膜(さいぼうまく)にある特殊なチャネル(通り道)やポンプが、まるで電気回路のように機能している、というものがあります。

細胞膜とは? 私たちの体のすべての細胞は、細胞膜という薄い膜で覆われています。これは細胞の内側と外側を隔てる「バリア」のようなもので、栄養素を取り込んだり、老廃物を排出したり、外部からの信号を受け取ったりする役割を担っています。細胞膜には、特定の物質だけを通す「チャネル」や、物質を能動的に輸送する「ポンプ」と呼ばれるタンパク質が存在し、これらが電気的な信号を発生させたり、伝達したりするのに重要な役割を果たしていると考えられています。

この電気回路のような機能が、死後の細胞の活動再開や再編成に関わっている可能性があると、研究者たちは推測しています。

不死身ではない「第三の状態」の限界

ただし、この「第三の状態」は、細胞が永遠に生き続ける「不死身の領域」ではありません。ゼノボットなどの細胞は通常、4~6週間で死滅することが確認されています。この期間が定められていることで、仮にこれらのバイオボットを体内に導入して薬を届けたり、組織を修復したりする医療応用を考えた場合でも、予期せぬ害を引き起こすことがないよう、安全性が確保されると期待されています。

日本への影響とこれからの展望

今回の「第三の状態」の発見は、生命の定義、死後の体の変化、そして医療の未来に対する私たちの見方を大きく変える可能性を秘めています。

医療分野での応用への期待

日本は世界でも有数の高齢化社会であり、再生医療や先進医療への関心が高い国です。今回の研究で示された「死んだ細胞が新たな機能を持つ」という現象は、将来的に以下のような応用につながるかもしれません。

  • ターゲットを絞った薬剤送達(ドラッグデリバリー)ゼノボットのように、特定の場所に薬を運ぶ「生きたロボット」として細胞を利用できれば、副作用を抑えつつ、病気の部位に効率よく薬剤を届けられる可能性があります。例えば、がん治療において、健康な細胞を傷つけずにがん細胞だけを攻撃する、といった応用が考えられます。
  • 組織の修復や再生アンスロボット神経細胞の傷を修復する能力を持つように、損傷した臓器や組織の自己修復を促したり、体内で失われた機能を回復させたりする新たな治療法の開発につながるかもしれません。特に、神経変性疾患や脊髄損傷など、現在の医療では治療が難しい疾患に対する希望となる可能性があります。

生命倫理と社会の議論

一方で、この研究は、私たちが慣れ親しんできた「生と死」の明確な境界線に疑問を投げかけます。死んだはずの細胞が生きているかのように振る舞う現象は、「生命とは何か?」という根源的な問いを社会に突きつけることになります。日本では生命倫理に関する議論が慎重に進められる傾向にあるため、このような研究が進むにつれて、社会全体でその意義や倫理的な側面について深く議論していく必要が出てくるでしょう。

日本の研究との連携・貢献

日本でも再生医療や細胞生物学の分野で世界をリードする研究が多数行われています。今回の「第三の状態」の研究は、まさに日本の得意とするiPS細胞研究やオルガノイド(ミニ臓器)研究とも深く関連しており、今後、国際的な共同研究を通じて、日本がこのフロンティア領域でさらに貢献していく可能性も十分に考えられます。

まとめ:生命の謎を解き明かす「第三の状態」

「生と死の間にある第三の状態」の発見は、私たちの生命に対する理解を根本から覆す、まさに画期的な研究成果です。細胞が持つ驚くべき「柔軟性(可塑性)」が、死後も新たな生命の可能性を秘めていることを示唆しています。

まだ研究は始まったばかりで、この現象の全容解明には時間がかかるでしょう。しかし、将来的には、病気の治療法や再生医療に革命をもたらし、私たちの健康や寿命に大きな影響を与えるかもしれません。同時に、「生命の定義」や「死とは何か」といった哲学的な問いについても、深く考えさせられるきっかけとなるでしょう。

この不思議な「第三の状態」に関する今後の研究の進展に、私たちは引き続き注目していく必要があります。