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【世界初】身近な炭素が「液体」に!4500℃の極限、未来エネルギー・惑星研究の扉開く

皆さんは、「これさえあれば何でも作れる!」という夢の素材を想像したことがありますか? 実は、私たちの身の回りにある炭素が、極限状態では想像を絶する姿を見せることがあります。普段、私たちが目にする炭素といえば、鉛筆の芯やダイヤモンドなど固体ですが、超高温・超高圧という特別な条件下では、なんと液体の姿になることが知られています。これが液体炭素です。

液体炭素は、地球や他の惑星の内部に存在したり、将来のクリーンなエネルギー源として期待される核融合エネルギーの研究にも関わるかもしれない、とても興味深い物質です。しかし、その性質を詳しく調べることは非常に難しく、長年謎に包まれていました。

なぜなら、炭素が液体になるためには、摂氏4500度(約4,500℃)という、他の物質と比べても極めて高い融点に到達する必要があるからです。さらに、これほどの超高温になっても気体にならずに液体でいるためには、非常に高い圧力も同時に求められます。この摂氏4500度という温度は、太陽の表面温度(約6000度)に迫るほどの熱であり、地球の深部や他の惑星の内部に存在するような極限環境です。また、通常の温度や圧力では、炭素は固体から直接気体になってしまい、液体状態をほとんど経由しません。

このように、約4,500℃の超高温・超高圧という、文字通り「どんな容器にも入らない」ような極限状態を作り出し、そこで炭素が液体になっている様子を安全に観察することは、これまでの技術では不可能でした。そのため、その重要な性質を詳しく知ることができず、多くの謎に包まれていたのです。

しかしこの度、ロストック大学とヘルムホルツ・ツェントルム・ドレスデン・ロッセンドルフ(HZDR)が主導する国際研究チームが、科学雑誌『Nature』で、世界で初めて実験室で液体炭素を生成し、その姿を捉えることに成功したと発表しました。彼らは2023年に欧州XFELで、英国科学技術施設会議が開発した高出力レーザー「DIPOLE 100-X」を初めて使用し、この画期的な実験を成し遂げました。これは、長年の課題を乗り越え、液体炭素の秘密に迫る画期的な研究です。米国の科学ニュースサイトSciTechDailyが報じたThe Bizarre Material No Container Can Hold: Scientists Create Liquid Carbon in the Lab for the First Timeでは、なぜ液体炭素を調べるのが難しかったのか、そして、どのようにしてこの偉業が達成されたのか、その詳細を分かりやすく解説しています。最先端科学技術の結晶とも言えるこの研究、ぜひ一緒に覗いてみましょう!

最新技術で「一瞬」を捉える! 液体炭素の観測に成功した方法

これまで観測が不可能とされてきた液体炭素。しかし、最新の科学技術を駆使することで、その秘密の姿を捉えることに成功しました!この偉業は、どのようにして成し遂げられたのでしょうか?

研究者たちは、強力なレーザーと超高速のX線レーザーを組み合わせた独自の測定技術を用いました。

まず、英国科学技術施設会議によって開発された高出力レーザー「DIPOLE 100-X」を固体炭素試料に照射します。このレーザーは、HIBEFユーザーコンソーシアム(Helmholtz International Beamline for Extreme Fields)によって世界中の科学者に提供されており、驚くほどのエネルギーをごく短い時間だけ集中させ、炭素を摂氏4500度(約4,500℃)という想像を絶する超高温・超高圧状態へと瞬間的に変化させます。これにより、炭素は液体になります。

しかし、この液体炭素は極限状態に耐えられる容器がないため、生成されてもナノ秒(10億分の1秒)という、まさに一瞬で気体に戻ってしまいます。このあまりにも短い時間しか存在しない液体炭素の姿を捉えることが、今回の研究の最大の課題でした。

そこで活躍したのが、ドイツのハンブルク近郊シェーネフェルトにある世界で最も強力なX線レーザー、「ヨーロッパX線自由電子レーザー(European XFEL)」です。このXFELは、液体炭素が生成された瞬間に、超短時間の強力なX線パルスを照射します。液体炭素にX線を当てると、炭素原子がX線を散らばらせるX線回折という現象が起こります。この散らばり方(回折パターン)を詳しく調べることで、液体炭素の中で原子がどのように並んでいるのか、その構造を「写真」のように記録し、解析することが可能になったのです。

主要な国際研究機関のコミュニティは、欧州XFEL内のHED-HIBEF実験ステーションで、DIPOLE 100-Xレーザーを用いたこの強力なレーザー圧縮と超高速X線分析、広範囲X線検出器を初めて組み合わせて使用しました。

実験全体はわずか数秒しかかかりませんが、X線パルスのわずかな遅延や圧力・温度条件のわずかな違いで何度も繰り返されます。これにより、多数のスナップショットが組み合わされて動画となり、研究者は固体から液体への相転移を段階的に追跡することができました。

液体炭素の「水のような」構造と融点の特定

これまでの研究で、液体炭素がどのような姿をしているのか、その「構造」について、いくつかの説がありました。しかし、実際に観測することが難しいため、はっきりとはわかっていなかったのです。今回の研究では、最新技術によって、この長年の謎が解き明かされました。

ダイヤモンドにも似ている? 意外な原子の並び方

今回の実験で明らかになったのは、液体炭素の原子の並び方が、私たちが知っている「水」の構造に似ているという点です。水分子も、単にバラバラに並んでいるのではなく、水素結合によって複雑なネットワークを作っていますよね。液体炭素も、それと同じように、原子が複雑に結びつき合った構造を持っていることがわかりました。

さらに驚くべきは、この液体炭素の構造が、各原子が4つの最近接原子を持つ点で、固体である「ダイヤモンド」の構造にも似ているということです。ダイヤモンドといえば、非常に硬く、炭素原子が規則正しく並んだ結晶構造をしています。液体炭素が、ダイヤモンドのような構造の一部を持っているというのは、非常に興味深い発見です。

研究を率いたロストック大学およびHZDRのドミニク・クラウス教授は、「今回初めて、液体炭素の構造を実験で観測することができました。私たちの実験結果は、これまでのコンピューターシミュレーション(計算による再現)の予測と一致しており、液体炭素が水のように複雑で、特別な構造を持っていることが確認できたのです」と語っています。この「水のような」という表現は、液体炭素が単なる液体のイメージとは異なり、非常にユニークな性質を持っていることを示唆しています。

融点の正確な特定

物質が固体から液体に変わる温度のことを融点といいます。液体炭素についても、その融点はこれまで理論的な予測にばらつきがあり、正確な値はわかっていませんでした。しかし、今回の実験によって、その融点もより正確に絞り込むことができたのです。

この正確な融点の特定は、惑星の内部構造を理解するためのシミュレーションや、将来の核融合エネルギー開発など、様々な分野で非常に重要な情報となります。

私たちが普段接する水とは全く違う、しかしダイヤモンドにも通じるような複雑な構造を持つ液体炭素。この発見は、物質の多様性とその奥深さを改めて教えてくれます。そして、それが惑星の内部や未来のエネルギーにどう関わるのか、想像が膨らみますね。

極限科学の扉を開く液体炭素研究:未来への展望

今回の液体炭素に関する画期的な研究は、単に新しい物質の発見にとどまらず、科学技術全体に大きな影響を与える可能性を秘めています。特に、高圧下での物質の振る舞いを調べるという分野に、新たな時代の幕開けを告げるものと言えるでしょう。

この成功を支えたのは、強力なレーザーと高速X線分析を組み合わせた「測定ツールボックスと呼べる画期的な観測技術です。HEDグループリーダーのウルフ・ザストラウ博士が「非常にエキゾチックな条件下での物質を信じられないほど詳細に特徴づけるための『ツールボックス』を手に入れた」と語るように、この技術はこれまで観測が困難だった極限状態にある物質の性質を、驚くほど詳細に調べることが可能にします。現在数時間かかる実験が将来は数秒で可能になるなど、未知の物質の発見や既存物質の新たな性質解明を飛躍的に加速させるでしょう。

この技術は、地球の深部や他の惑星内部、さらには未来の核融合エネルギー開発といった極限環境下での物質研究に革命をもたらします。高圧下での物質科学の進展は、新材料の開発や惑星モデリングなど、私たちの生活を豊かにする様々な分野に貢献する可能性を秘めているのです。

科学者たちが「不可能」とされてきた壁を乗り越え、目に見えない原子の世界を「見る」ことを可能にしたこの最先端技術は、人類の飽くなき探求心と国際協力の真髄を示しています。私たちの身近にある「炭素」という元素が、これほどまでに多様な顔を持ち、想像を絶する可能性を秘めていることに、改めて科学の奥深さと面白さを感じずにはいられません。

この研究の進展が、皆さんの好奇心を刺激し、日常の中にも潜む科学の不思議さや、未知の世界を探求する科学者たちの情熱に目を向けるきっかけとなれば幸いです。未来は、私たちの想像を超えた科学の進歩によって、日々形作られていくのです。