日本の古墳時代というと、巨大な古墳の周りに、素焼きの土製品である埴輪がたくさん並べられた光景を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
そんな埴輪の中でも、約1500年前に作られた2体の人物像「踊る埴輪」は、ひときわ不思議な魅力を放っています。その名の通り、まるで踊っているかのようなユニークな姿は、古くから多くの人々を魅了し、海外の科学メディア「Haniwa Dancers: 1,500-year-old ghostly figurines thought to hold the souls of the dead」でも、死者の魂を宿すと考えられていた可能性が紹介されています。
しかし、このポーズは本当に踊っているのでしょうか?それとも、馬を引いている姿なのでしょうか?本記事では、考古学者たちの様々な説を紐解きながら、この謎に迫ります。また、人気ゲーム『どうぶつの森』に登場する「ハニワ」のルーツにも触れながら、この古代の遺物が持つ多角的な魅力を一緒に探ってみましょう。
「踊る埴輪」の基本情報と魅力
今回注目する「踊る埴輪」(正式名称「埴輪 踊る人々」)は、古墳時代に作られた素焼きの土人形です。古墳時代とは、300年から710年にかけて、権力者たちが巨大な墓である古墳を築造し、死者を埋葬した時代を指します。この埴輪は、その古墳の周囲に置かれました。
「踊る埴輪」は、大きさの違う2体の人物がセットになった、ひときわ目を引く存在です。その名の通り、まるで歌い踊っているかのような生き生きとした姿が特徴で、シンプルながらも顔には穴が開けられ、腕は軽く持ち上げられています。この独特な表現が、約1500年の時を超えて、今なお多くの人々を惹きつけているのです。
この埴輪は1930年、東京の北に位置する埼玉県(現在の熊谷市)の古代墓地から発見されました。現在は、日本の文化財を数多く収蔵する東京国立博物館に大切に保管されており、その姿を鑑賞することができます。
埴輪の一般的な役割
埴輪は、古墳時代を通じて、古墳の周りや墳丘上に並べられました。当初は筒状のシンプルな形でしたが、時代が進むにつれて、人、馬、家、武具など、様々な形が登場します。これらは墓の飾りや領域を示す目印としてだけでなく、死者の供養、聖域の表示、さらには死者の魂を宿す器としての役割も担っていたと考えられています。「踊る埴輪」のような人物埴輪は、そこに眠る故人や、それに仕える人々の姿を表しているとも考えられるでしょう。
埴輪のユニークな姿は、約1500年前の人々の暮らしや世界観を垣間見せてくれる、貴重な歴史資料なのです。
「踊る埴輪」の謎!考古学者たちが語る3つの説
「踊る埴輪」の姿は、まるで生き生きと歌い踊っているように見えます。そのユニークなポーズから、「これは一体何を表しているのだろう?」と多くの人が想像を巡らせてきました。考古学者たちの間でも解釈は一つではなく、様々な説が唱えられています。ここでは、特に有力とされる3つの説をご紹介しましょう。
1. 男女のペア説:農夫の夫婦、または恋人?
2008年に考古学者の禰冝田佳男氏が発表した研究では、「踊る埴輪」は男女のペアである可能性が示唆されています。特に、小さい方の埴輪の頭部側面に粘土が付着している様子が、当時の農夫の髪型に似ているとの指摘があります。このことから、禰冝田氏は、この埴輪が農夫の夫婦、あるいは恋人同士を表しているのではないかと推測しました。当時の人々が、共同作業や生活を共にする男女の姿を埴輪に込めたという見方は、非常に興味深いですね。
2. 馬を引く男性馬飼い説:勇壮な馬との関わり
一方、2007年の研究で考古学者の塚田良道氏は、全く異なる説を提唱しました。塚田氏によると、「踊る埴輪」は踊っているのではなく、馬の手綱を引いている2人の男性馬飼いではないかというのです。彼らの姿勢が、馬を操る様子を表現していると考えられています。もしこの説が正しければ、古墳時代における馬の重要性や、馬を世話する人々の姿を埴輪に刻んだことになります。大迫力の馬と、それを制御する男性たちの姿を想像すると、これもまた違った迫力を感じます。
3. その他の解釈:神事や儀式との関連も?
上記以外にも、「踊る埴輪」の解釈は様々です。例えば、単に踊っている姿ではなく、何らかの神事や儀式における特別な舞を表現しているという説もあります。また、その土地に伝わる独特の風習や祭りを埴輪に込めた可能性も考えられます。
このように、「踊る埴輪」一つをとっても、考古学者たちの研究によって多様な解釈が生まれます。一つの遺物から、当時の人々の暮らしぶりや信仰、表現方法について、いくつもの「もしも」を想像できるのは、埴輪研究の大きな魅力と言えるでしょう。あなたならこの埴輪の姿を見て、どんな物語を想像しますか?
ゲームでもおなじみ?「埴輪」と現代のつながり
Nintendo Switch™などで人気のゲーム『どうぶつの森』シリーズをプレイしたことはありますか? あのゲームでは、地面から掘り出すと音を奏でる「ハニワ」というアイテムが登場します。実は、この「ハニワ」は、古代の「埴輪」がモデルになっているのです。
『どうぶつの森』の「ハニワ」と古代の埴輪
『どうぶつの森』シリーズに登場する「ハニワ」は、見た目もどこかユーモラスで、ゲームの世界観にユニークな彩りを加えています。地面に埋まっている「ハニワのかけら」を集めて復元すると、個性豊かな「ハニワ」が完成し、それぞれが独特の音色を奏でます。
この「ハニワ」が、古代の「埴輪」をモチーフにしているのは、とても興味深い事実です。地面から掘り出すという設定やその独特な形状は、古代の埴輪のイメージをうまく取り入れています。
古代文化が現代エンターテインメントに
遠い古墳時代に作られた「埴輪」が、現代の人気ゲームに登場し多くの人々に親しまれているのは、古代文化が現代のエンターテインメントに息づいている素晴らしい例と言えるでしょう。ゲームを通して「ハニワ」に触れたことをきっかけに、実際の「埴輪」や、その背景にある古墳時代の歴史に興味を持つ人もいるかもしれません。
「踊る埴輪」のような個性豊かな埴輪たちの姿は、約1500年前の人々の暮らしや文化を私たちに伝えてくれます。ゲームで親しんだ「ハニワ」をきっかけに、ぜひ本物の埴輪にも注目してみてください。歴史が、もっと身近に感じられるはずです。
古代からの謎かけ:「踊る埴輪」が未来に伝えるもの
「踊る埴輪」は、約1500年の時を超えて、私たちに静かに問いかけています。それは陽気な踊りなのか、日々の労働の姿なのか、あるいは神聖な儀式の一場面なのか。この記事でご紹介したように、専門家の間でも解釈は分かれており、一つの答えにたどり着くことはありません。しかし、この「わからなさ」こそが、「踊る埴輪」が持つ最大の魅力なのかもしれません。
今後、考古学の技術が進歩すれば、新たな発見があるかもしれません。しかし、たとえ真実が明らかにならなくても、この2体の埴輪が私たちの想像力をかき立て、古墳時代の人々の暮らしや心に思いを馳せるきっかけを与えてくれることに変わりはありません。
もしあなたがゲーム『どうぶつの森』で「ハニワ」を集めるのが好きなら、ぜひ一度、東京国立博物館で本物の「踊る埴輪」に会ってみてはいかがでしょうか。その素朴ながらも力強い姿を目の前にすれば、ゲームのキャラクターとはまた違った、古代の人々の息づかいを感じられるはずです。歴史は、教科書の中だけでなく、こうした一つの遺物が語りかける小さな物語の中にこそ、生き生きと存在しているのです。