「買ったはずのゲームが、ある日突然プレイできなくなる」―この問題に対し、ヨーロッパで「Stop Killing Games」という消費者運動が大きなうねりを見せています。海外メディアEurogamerが報じた記事「Stop Killing Games' proposals for game preservation "prohibitively expensive", major publishers insist」によると、この運動は100万人以上の署名を集めましたが、大手ゲーム企業の業界団体は「開発コストを法外に高騰させる」と強く反発。プレイヤーが購入したゲームを遊び続ける権利と、企業のビジネス上の判断が、今まさに衝突しています。
デジタル時代の「所有権」を問う『The Crew』サービス終了問題
この運動が本格化する象徴的なきっかけとなったのが、Ubisoftが発売したオープンワールドレースゲーム『The Crew』です。2024年3月にサービスが終了したこのゲームは、プレイに常時オンライン接続が必須でした。そのためサーバーが停止すると、一人用のシングルプレイモードすら完全に遊べなくなってしまったのです。
さらに大きな波紋を呼んだのが、その後Ubisoftがプレイヤーのライセンスそのものを無効化し、購入者のライブラリからゲームを永久に削除したことです。購入したはずのゲームが、提供元の都合一つでアクセスできなくなる事態は、多くのプレイヤーに衝撃を与えました。
この問題の根底には、デジタルコンテンツにおける「所有」とは何か、という普遍的な問いがあります。私たちがゲームや電子書籍を「購入」する際、そのデータを自分のものにしたと考えがちですが、実際にはサービスにアクセスしてコンテンツを利用する「ライセンス(利用権)」を買っているに過ぎないケースがほとんどです。この「所有」と「アクセス」のギャップが、今回の運動の大きな原動力となっています。
こうした状況に異議を唱え、YouTubeチャンネル「Accursed Farms」を運営するロス・スコット氏が立ち上げたのが「Stop Killing Games」運動です。この運動は、消費者の権利を守るだけでなく、文化遺産としてゲームを未来へ継承する「ゲーム保存(Game Preservation)」という重要な側面も持ち合わせています。
100万人の署名が動かす欧州と、ゲーム業界の反論
「Stop Killing Games」運動は、EUの「欧州市民イニシアチブ」という制度を活用し、目標の100万人を超える署名を集めました。これは、一定数の署名が集まれば、欧州委員会に法改正などを提案できる市民参加の仕組みです。ただし、主催者は記入ミスやなりすましにより無効な署名が多く含まれる可能性があると警告しており、有効な署名数は60万〜70万件程度と推定されています。
この市民の声を受け、今後、欧州議会でこの問題が公式に議論される可能性が生まれました。しかし、欧州のゲーム業界を代表する団体「Video Games Europe」は強い懸念を表明。「コミュニティの情熱は理解できるが、オンラインサービスの終了は事業が成り立たなくなった場合の最後の選択肢であるべきだ」と主張しています。さらに、運動側が提案するようなゲームの永続的な維持や、プレイヤーが個人で運営するプライベートサーバーの公認は、データ保護や違法コンテンツ対策の観点から安全とは言えず、開発費を法外に高騰させると訴えています。
この運動の波はEUに留まりません。英国でも同様の請願が15万件以上の署名を集めました。政府は当初、1万件の署名に対して「消費者保護法を改正する計画はない」と回答しましたが、議会での討論の検討が必要となる10万件の基準を大きく超えたことで、今後の展開が注目されています。
記者の視点:ゲームの未来のために、私たちに何ができるか
ヨーロッパで起きているこの動きは、日本のゲーマーにとっても決して他人事ではありません。もしヨーロッパで法制化が進めば、その影響は世界中のゲーム業界に及び、日本のゲームの提供方法にも変化が生まれる可能性があります。日本でも、NPO法人「ゲーム保存協会」などが過去の名作を後世に残す活動を続けており、こうした動きと連動してゲームのあり方を問う声がさらに高まるかもしれません。
この対立は、プレイヤーと企業がどちらかの要求を一方的に通すのではなく、両者が共存できる新しい道を探るべきだという課題を提示しています。例えば、サービス終了後にオフラインで遊べるパッチを有料で提供したり、一定の条件下でコミュニティによるサーバー運営を認めたりといった、新しい折衷案を模索する動きが期待されます。
私たちプレイヤーにできることもあります。この問題を「自分ごと」として捉え、SNSで意見を発信したり、動向を注視したりすること。そして、ゲームを選ぶ際に「このゲームは長く愛せるか?」という視点を少し加えることです。一つ一つの行動は小さくても、集まれば大きな力となり、業界を動かすきっかけになり得ます。
愛されるゲームを未来へ:プレイヤーと企業が築くべき関係
この運動は、プレイヤーと企業が対立するためのものではなく、愛されるゲームが文化として長く生き続けるための持続可能な関係を共に築くための一歩です。私たち一人ひとりがその当事者であるという意識を持つことが、ゲームの明るい未来を創る鍵となるでしょう。
