ゲーム業界の舞台裏では、今まさに大きな変化が起きています。私たちが楽しむゲームが作られる現場では、一体何が起きているのでしょうか。
本記事では、海外メディアGame Developerのニュース「Patch Notes #14: Steam wages war on porn, Krafton accused of going nuclear, and King reportedly swaps humans for AI tools」を基に、業界が直面する光と影を分かりやすく解説します。
大手企業で相次ぐ人員削減、人気ゲームの続編を巡る訴訟、そしてAIによる雇用の代替といった深刻な問題から、クリエイターを支える新たな動きまで、業界の最新動向を紐解いていきましょう。
ゲーム業界を揺るがす逆風:相次ぐ人員削減と法廷闘争
最近、ゲーム業界では「レイオフ」と呼ばれる人員削減のニュースが後を絶ちません。人気タイトルの裏側で、開発者たちが直面している厳しい現実を見ていきましょう。
Microsoft傘下スタジオの抵抗:レイオフを巡る交渉
親会社Microsoftがゲーム部門全体で進める大規模なレイオフに対し、人気MMORPG『The Elder Scrolls Online』を開発するZeniMax Online Studiosの労働組合が抗議の声を上げています。Microsoftは傘下のXbox Game Studiosなどで人員削減を断行していますが、ZeniMaxの組合員については組合との交渉が続いているため、現時点では一人も解雇されていません。しかし、今後の影響が及ぶ可能性も示唆されており、組合は会社に多大な利益をもたらしてきた従業員を守る意思がないとして、親会社を強く非難しています。
高評価の裏で…Virtuosの大規模な人員削減
ゲーム開発サービス大手のVirtuosも、「未来のゲーム開発」を名目に、全従業員の7%にあたる人員削減を発表しました。アジアで200の役職、ヨーロッパで70人が対象と報じられています。特に、高い評価を得た『Oblivion Remastered』の開発に貢献したフランスのスタジオまでもが削減対象に含まれていることに、疑問の声が上がっています。
AIが仕事を奪う? Kingで現実味を帯びる雇用の代替
さらに深刻なのが、Microsoft傘下であるKingの事例です。ここでは、従業員が開発に貢献したAIツールによって自らの職が奪われるという、AIによる代替の懸念が現実のものとなりつつあります。関係者によると、約200の役職が削減対象となり、その多くがAIに置き換えられる可能性があるとされ、従業員の士気は「どん底」に落ちていると報じられています。
『Subnautica 2』開発を巡る法廷闘争
人気水中サバイバルゲーム『Subnautica』シリーズの開発元Unknown Worldsと、パブリッシャーであるKRAFTONの間で、深刻な法廷闘争が繰り広げられています。Unknown Worldsの元創設者3名は、KRAFTONが彼らに支払うべきだった2億5000万ドル(約375億円)の支払いを回避しようとしているとして、同社を提訴しました。
彼らの主張は、KRAFTONが元経営陣を不当に解任し、待望の続編『Subnautica 2』の開発を「人質に取っている」というもの。一方、KRAFTONは元経営陣が職務を放棄したと反論しており、両者の主張は真っ向から対立しています。この一件は、ゲームのIP(知的財産)の権利や、開発元とパブリッシャーの複雑な力関係を浮き彫りにしています。
親会社によるスタジオ閉鎖疑惑:Secret 6 Madridの苦境
マドリードに拠点を置くアートスタジオSecret 6 Madridでは、親会社Testronicによる「妨害行為」が告発されています。従業員の訴えによると、親会社はより労働条件の厳しいフィリピンのマニラ拠点に業務を移管するため、意図的にスタジオを閉鎖に追い込もうとしているとのことです。従業員側は、会社が公正な退職金の要求に応じない場合、ストライキに踏み切ることを明言しています。
規制強化の波紋:Steam、成人向けコンテンツの方針を転換
世界最大のPCゲームプラットフォームであるSteamが、ガイドラインを更新し、一部の成人向けコンテンツの公開を禁止する方針を打ち出しました。この変更は、クレジットカード会社といった決済代行業者が定めるルールに違反する可能性のあるタイトルを対象としています。テクノロジー系メディアの404 Mediaは、非公式データベースサイトSteamDBのデータを基に、この変更がすでにSteamストアに与えている影響を詳細に分析・報道しています。
逆境の中の希望:クリエイター支援とファンの力
こうした厳しいニュースが続く一方で、業界には明るい兆しもあります。
Robloxが拓くIP活用の新たな可能性
その運営を巡って倫理的な問題が指摘されることもあるゲームプラットフォームRobloxが、クリエイター支援に向けた新たな一歩を踏み出しました。同社は、クリエイターが有名IP(知的財産)を公式に利用してゲームを制作・収益化できる新プラットフォームを導入。これにより、セガの『龍が如く(Like a Dragon)』やNetflixの『ストレンジャー・シングス』といった人気作品の世界を、クリエイターがRoblox上で自由に再現できるようになります。
IPの利用には、権利を持つホルダー企業が定める条件を満たす必要があります。例えばセガは、『龍が如く』のIP利用条件として、制作したゲームが1,000人のデイリーアクティブユーザーを獲得することなどを挙げています。この仕組みは、クリエイターに新たな活躍の場を提供するだけでなく、IPホルダーにとってもファン層の拡大につながる可能性があります。
ゲームの力で社会貢献:「SGDQ」の成功
ゲームが持つポジティブな力を示す好例が、チャリティイベント「Summer Games Done Quick(SGDQ)」です。これは、世界中のゲーマーがゲームの早解き(スピードラン)を披露し、その様子を配信することで寄付を募る年次イベントです。
先日開催されたSGDQ 2025では、「国境なき医師団」のために約244万ドル(約3億6300万円)の寄付金が集まりました。ゲームがエンターテインメントの枠を超え、社会に大きく貢献できる可能性を示しています。
記者の視点:問われる「人」を大切にする姿勢
一連のニュースは、短期的な利益や効率を追求するあまり、ゲーム開発の根幹である「人」という資産が軽視されがちな現実を浮き彫りにしています。レイオフや安易なAIによる代替は、長期的にはチームの士気を下げ、革新を生む土壌を痩せさせかねません。
本当に成功する企業とは、開発者を尊重し、ファンと誠実に向き合い、持続可能な開発環境を築ける企業ではないでしょうか。私たちユーザーも、どのゲームを応援し、どの企業を支持するかという「選択」を通じて、業界の未来に影響を与えることができるのです。
ゲーム業界の未来図:課題を乗り越え、希望を創る
AIとの共存、クリエイターの待遇、企業倫理――ゲーム業界は今、数多くの課題に直面しています。しかし、Robloxのようなクリエイター支援の新たな試みや、SGDQが示すファンの熱意は、未来への希望を感じさせます。
一本のゲームの裏には、開発者たちの情熱と努力、そして時に対立さえもが詰まっています。今回紹介した出来事を通じてその背景にある物語に思いを馳せることが、ゲームとの向き合い方を少しだけ豊かにしてくれるかもしれません。ゲームを愛する一人として、業界がより良い方向へ進むことを願いつつ、その動向を見守っていきましょう。
