ワカリタイムズ

🌍 海外ニュースを「わかりやすく」

1万年前、彗星が縄文時代を変えた?ヤンガードライアス期の「新証拠」

最終氷期が終わり、地球が温暖化へ向かっていた約1万2900年前、事態は急変します。北半球の気温はわずか約1年で10℃近くも低下し、地球は再び約1,200年間にわたる寒冷期へと逆戻りしました。これがヤンガードライアス期(Younger Dryas event)です。その名は、寒冷な気候で繁栄した高山植物「チョウノスケソウ属(Dryas genus)」に由来します。

この急激な気候変動の原因をめぐっては、長年二つの仮説が議論されてきました。

  • 海洋循環の変化説: 氷河が溶けた大量の冷たい真水が北大西洋に流れ込み、暖かい海水を北へ運ぶ海流の循環を停止させたことで、寒冷化を引き起こしたとする説。
  • 衝突仮説(impact hypothesis): 巨大な彗星、あるいはその破片が地球に衝突、もしくは大気圏で爆発(エアバースト)したとする説。大気中に舞い上がった大量の塵が太陽光を遮断し、地球全体を長期間にわたって冷却したと考えられています。

しかし、衝突仮説には巨大なクレーターという物証がなく、決定打に欠けていました。この長年の論争に一石を投じる可能性のある発見が、科学ニュースサイトLive Scienceの「Massive comet trail may have transformed Earth's climate more than 12,000 years ago, tiny particles suggest」で報じられました。

海底のタイムカプセルから見つかった「彗星の指紋」

研究チームは衝突仮説を検証するため、グリーンランドとカナダの間に位置するバフィン湾(Baffin Bay)の海底に注目。ここで採取された海洋堆積物コア(ocean sediment cores)は、数万年にわたる地球の歴史を記録した、いわば「海底のタイムカプセル」です。

科学誌PLOS ONE』で発表されたこの研究では、ヤンガードライアス期の始まりに相当する地層を詳細に分析した結果、彗星の衝突を示す間接的な証拠となる微粒子(tiny particles)が発見されました。

これらの微粒子には、地球の地殻にはごくわずかしか存在しないプラチナ(白金)やイリジウムといった貴金属が豊富に含まれていました。これらの元素は、小惑星や彗星といった地球外の天体に多く含まれることが知られています。そのため、これらの微粒子は、宇宙から飛来した物質の「指紋」と見なせるのです。

研究チームは、これらの微粒子が「崩壊中の彗星から放出された塵が大気圏に突入し、地球全体に降り注いだことを強く示唆するものだ」と結論づけています。

崩壊した彗星が招いた「インパクト・ウィンター」

では、彗星の塵はどのようにして地球を寒冷化させたのでしょうか。その鍵となるのが「インパクト・ウィンター(impact winter)」という現象です。

これは、天体衝突によって大気中に巻き上げられた大量の塵や粒子がベールのように地球を覆い、太陽光を遮ることで地上の気温が劇的に低下する現象を指します。今回の研究は、ヤンガードライアス期がこのインパクト・ウィンターによって引き起こされた可能性を強く示唆しています。

さらに興味深いことに、この現象を引き起こした彗星は、現在私たちにも馴染み深い天体と関連があるかもしれません。毎年秋に見られるおうし座流星群(Taurid meteor shower)は、エンケ彗星(Comet Encke)を母体とする巨大彗星の残骸が起源とされ、これらはおうし座複合体(Taurid Complex)と呼ばれています。約1万2900年前に地球に接近したこの巨大な彗星の破片群が、ヤンガードライアス期の引き金になったのかもしれないのです。

この地球規模の寒冷化は、日本列島で暮らしていた縄文時代の人々の生活にも大きな影響を与えたと考えられます。直接的な記録は残っていませんが、急激な気候変動は食料となる動植物の分布を大きく変え、彼らの生活様式に多大な影響を及ぼしたことでしょう。

記者の視点:彗星が変えた地球の過去と、私たちが学ぶべき未来

海底から見つかった目に見えないほど小さな粒子が、1万年以上前の地球の気候を支配していたかもしれない――。今回の発見は、地球の歴史が宇宙の出来事と密接に結びついていることを示す、壮大な物語を私たちに提示しています。

この衝突仮説がさらに多くの証拠によって裏付けられれば、ヤンガードライアス期に起きたとされる大型哺乳類の絶滅など、他の歴史的な謎にも新たな光が当たる可能性があります。

この遠い過去の出来事から、私たちは二つの重要な教訓を学ぶことができます。

一つは、地球の気候システムがいかに繊細で、外部からの影響で大きく変動しうるかという事実です。これは、現代の私たちが直面する気候変動問題を考える上で、非常に重要な視点を与えてくれます。

もう一つは、私たちの視野を足元から宇宙へと広げることの重要性です。夜空を彩る美しい流星群が、遠い過去には地球環境を激変させるほどの力を持っていたかもしれない。この事実は、私たちが住む地球が、広大な宇宙の中でダイナミックに変化し続ける惑星であることを改めて教えてくれます。小さな微粒子の探求から始まったこの物語は、地球の過去を理解し、未来を考えるための新たな鍵となるでしょう。