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【JRPGの未来】仏製RPGが示した「見た目」と「中身」の壁

フランスのゲームスタジオSandfall Interactiveが開発した『Clair Obscur: Expedition 33』が、ゲーム業界に衝撃を与えています。西洋RPGのようなフォトリアルなグラフィックと、日本のRPGが持つ戦略的なゲームシステムを融合させたこの作品は、世界的な大ヒットを記録しました。しかし、その成功は「なぜこのゲームは、一部の海外プレイヤーから『従来の日本のRPGより優れている』と評されるのか?」という根深い問題を私たちに投げかけています。

本稿では、海外メディアGameSpotの記事「Clair Obscur: Expedition 33 Is Great, But Its Popularity Raises Big Questions About How We View Japanese RPGs」を基に、本作の成功の背景を分析し、「JRPG」という言葉にまつわるイメージや、日本と西洋のゲーム文化における「好み」の違いを掘り下げていきます。

予想外の大ヒットとなった『Clair Obscur: Expedition 33』

『Clair Obscur: Expedition 33』は、発売からわずか24時間で50万本を売り上げ、33日間で330万本を超えるなど、驚異的なセールスを記録しました。本作は、プレイヤーと敵が交互に行動を選択する、戦略性の高い戦闘システムが特徴のターン制RPGです。

開発を手がけたのは、フランスの新進気鋭スタジオSandfall Interactive。2024年の「Xbox Games Showcase」で初公開されると、そのフォトリアルなグラフィックと日本のRPGを思わせる奥深いゲーム性の融合が、世界中のゲームファンに衝撃を与えました。

この成功は、ターン制RPGというジャンルへの関心を再び高めると同時に、「なぜ似たような魅力を持つ日本のRPGが、同等の世界的ヒットになりにくいのか?」という問いを浮き彫りにしたのです。

JRPG」というラベルが持つ、見えない壁

『Clair Obscur: Expedition 33』の成功は、私たちが普段何気なく使う「JRPG」という言葉が持つ、複雑な意味合いを浮き彫りにします。

JRPGは「Japanese Role-Playing Game」の略で、元々は単に「日本製のRPG」を指す言葉でした。しかし時代と共に、ターン制バトルやアニメ調のグラフィックといった特定のゲームスタイルを指すジャンル名として定着。便利なラベルである一方、固定観念や、時には否定的なニュアンスを伴うこともあるのです。

ファイナルファンタジーXIV』などを手がけるスクウェア・エニックス吉田直樹氏も、この言葉がかつて海外で日本のRPGを揶揄する文脈で使われた歴史から、「差別的」に感じることがあると指摘しています。この言葉が、無意識のうちに日本のRPGを特定の型にはめ、正当な評価を妨げている可能性があるのです。

見た目か、中身か? アートスタイルが分ける評価の境界線

『Clair Obscur』と日本の傑作RPGゼノブレイド3』は、心を揺さぶる物語や奥深いシステムなど多くの共通点を持ちます。両作とも「死」や「はかない命」という普遍的なテーマを扱い、『Clair Obscur』では「ゴマージュ」という儀式で若者が命を落とす運命を、『ゼノブレイド3』では寿命がわずか10年の世界での葛藤を描きます。

ではなぜ、これほど似ていながら評価が分かれるのでしょうか。大きな要因の一つが、「アニメ調」のグラフィックに対する西洋市場の一部にある文化的な壁です。欧米では「アニメは子供向け」という固定観念がいまだ根強く、物語が重厚でも「子供っぽい」と敬遠されることがあります。

この「見た目の壁」は、販売実績に如実に表れています。

  • 驚異的な販売速度:アトラスの『ペルソナ3 リロード』が100万本達成に1週間以上要したのに対し、『Clair Obscur』はわずか半日で達成したと報じられています。
  • 長期的な売上との比較:大作『ファイナルファンタジーXVI』が約2年で350万本に達した一方、『Clair Obscur』はわずか33日で330万本に迫ります。

高く評価された『ファイアーエムブレム 風花雪月』(400万本超)でさえ、『Baldur's Gate 3』(1年で1500万本以上)のような西洋RPGのメガヒットとは大きな差があります。

もちろん、例外もあります。フロム・ソフトウェアの『エルデンリング』は、世界で3000万本以上を売り上げる歴史的な成功を収めました。しかし、同作が「アニメ風」ではないダークファンタジーの写実的なグラフィックだったからこそ、この「JRPGバイアス」を乗り越えられたという見方もできます。これは問題が「日本製」という点以上に、「アニメ風の見た目」が西洋市場でいかに大きなハードルになりうるかを示唆しています。

こうした傾向はゲームに限りません。Netflixの視聴ランキングで日米の人気作が異なるように、メディア消費には文化的な「好み」が強く影響します。興味深いことに、その傾向は日本でも見られ、『Clair Obscur』の国内売上は、同日発売の『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』に及ばず、後者はその約3倍の販売本数を記録しました。これは、それぞれの市場が自国のテイストに馴染んだ作品を好むという、シンプルな事実を裏付けています。

魂は日本製――JRPGへの深いリスペクト

しかし、その「西洋風」の見た目の裏で、『Clair Obscur』の魂が日本のRPGから多大な影響を受けている事実は見逃せません。開発元Sandfall Interactiveの共同設立者François Meurisse氏は、チームがJRPGの大ファンであり、特に『ファイナルファンタジーX』と『ペルソナ』シリーズから強いインスピレーションを受けたと明かしています。

2001年発売の『ファイナルファンタジーX』が描いた「犠牲」をテーマにした感動的な物語は、『Clair Obscur』の避けられない運命に立ち向かう若者たちの姿に重なります。

また、洗練されたバトルでターン制の新たな可能性を示した『ペルソナ』シリーズの影響も顕著です。特にその方向性を決定づけた『ペルソナ3』は、『Clair Obscur』と同様に「死」を重く扱い、「メメント・モリ(死を忘れるな)」というテーマを掲げ、キャラクターが銃型の召喚器を自らの頭部に向けるという衝撃的な演出でペルソナを召喚しました。仲間との関係構築に焦点を当てた先駆的なシステムも、後のシリーズや多くのRPGに影響を与えています。『Clair Obscur』の戦略的な戦闘やキャラクターとの交流は、こうしたアトラス作品が築いた面白さへの深いリスペクトから生まれたと言えるでしょう。

記者の視点:面白さを届ける「文化の翻訳」

『Clair Obscur: Expedition 33』を巡る議論は、単なるゲームの評価にとどまらず、文化がどう伝わり、受け入れられるかという「翻訳」の問題を浮き彫りにします。

本作は、日本のRPGが培ってきた心に響く物語や戦略的なゲームプレイという「魂」を、フォトリアルなグラフィックという西洋のプレイヤーに馴染み深い「言葉」へ見事に翻訳しました。これは日本のRPGが劣っているのではなく、文化背景の異なる相手に魅力を伝える「工夫」がいかに重要かを示しています。

私たちは知らない文化に触れると、無意識に自らの物差しで測りがちです。しかし、このゲームの成功は、作り手だけでなく、私たち受け手側も少し想像力を働かせてその「壁」を乗り越えようとすることで、楽しめる作品の世界がもっと豊かになる可能性を教えてくれるのです。

ラベルを越え、広がるゲームの未来

『Clair Obscur: Expedition 33』のヒットは、ゲームの面白さが「JRPG」や「洋ゲー」といったラベルで決まるものではないと改めて教えてくれました。見た目が第一印象を左右する一方で、心を揺さぶる物語や夢中になれるゲーム体験は、国境やジャンルを超える力を持つことを証明したのです。

この成功は、ゲーム開発に新たな潮流を生むかもしれません。日本の開発者がグローバル市場を意識して写実的なRPGに挑む。そして、『Clair Obscur』からターン制RPGの魅力に気づいた海外のプレイヤーが、その源流である『ファイナルファンタジー』や『ペルソナ』を手に取る。そんな素晴らしい循環が生まれる可能性があります。

大切なのは、どちらのスタイルが優れているかではありません。アトラスの『メタファー:リファンタジオ』のように、独自の美学を貫く作品が世界でどう評価されるのか、今後も注目です。この記事をきっかけに、普段は手に取らないスタイルのゲームに挑戦してみませんか。その先には、あなたの「好み」の壁を越えた、新しいお気に入りの一本が待っているかもしれません。