私たちの足元、地球の奥深くで驚くべき変化が起きています。まるで心臓の鼓動のように、地球のマントルから周期的な脈動が大地に現れ、新しい海の誕生を促しているのです。科学ニュースサイトEarth.comが報じた「“Rhythmic surges” detected in Africa where a new ocean is forming」という記事によると、アフリカ東部のアファール低地で観測されたこの現象は、大陸が分裂して海に変わる壮大な地質学的プロセスの新たな証拠だといいます。この記事では、地球内部のダイナミックな活動が、どのようにして私たちの知る世界の形を変えていくのか、その謎に迫ります。
地球の鼓動の正体:アファール低地で何が起きているのか?
私たちの住む地球は、常に活動を続けるダイナミックな惑星です。その活動が特に顕著なのが、アフリカ大陸東部に位置する「アファール低地」です。ここは、地球の表面を覆う巨大な岩盤であるプレートが3つも接する、地質学的に極めて重要な場所。プレート同士がぶつかったり、引き裂かれたりする境界では、地震や火山活動が活発になりますが、アファール低地はまさに地殻が引き裂かれ、新しい海洋が形成されつつある「現場」なのです。
サウサンプトン大学の研究チームは、このアファール低地の下で起きている驚くべき現象を発見しました。それは、地殻の下に広がる高温の岩石層であるマントルからの「リズミックな脈動」です。研究チームがこの地域の130以上の火山から採取した溶岩の化学成分を分析したところ、マントル深部からの熱い上昇流は一定ではなく、周期的に脈打っていることが明らかになりました。この熱い上昇流は「マントルプルーム」と呼ばれ、プレートが引き裂かれてできた裂け目に沿って、地殻へと上昇してきます。
研究の主著者であるエマ・ワッツ氏は、「マントルは均一でも静止しているわけではなく、脈動しています。これらの部分的に溶融したマントルの上昇流は、上にあるプレートの動きに導かれています」と語ります。プレートが速く引き裂かれる場所ではマントルの流れも速く集中的になり、動きが遅い場所では上昇流がより広範囲に及ぶことが観測されました。この脈動こそが、新しい海洋が生まれるプロセスを制御していると考えられています。
大陸が引き裂かれ、新しい海が生まれる仕組み
地球の表面は、地下深くのダイナミックな動きによって常に作り変えられています。その原動力がプレートの運動であり、その結果として大陸が分裂し、新しい海が生まれるという壮大なドラマが繰り広げられます。
大陸分裂の原動力
大陸の分裂は、プレートが引き裂かれることで始まります。東アフリカでは、アフリカ大陸を二つに引き裂こうとしている巨大な裂け目「東アフリカ大地溝帯」で、そのプロセスを直接見ることができます。この大地溝帯の一部である「紅海リフト」や「アデン湾リフト」では、すでに大陸の分裂が進み、新しい海が形成され始めています。
この分裂を後押しするのが、マントルからの上昇流です。今回の研究で明らかになった「リズミックな脈動」を伴うマントルプルームは、周期的に熱い物質を地殻に供給し、プレートをさらに弱らせ、分裂を加速させていると考えられています。
新しい海洋の誕生
大陸の分裂が進んで地殻が薄くなると、やがてその裂け目に海水が流れ込み、新しい海洋が誕生します。サウサンプトン大学の研究によると、マントルからの熱によって、この地域の地殻は約15kmの薄さにまで引き伸ばされていることが示唆されています。地殻がここまで薄くなると、火山活動がさらに活発化し、やがては新しい海底が作られる「海洋底拡大」が本格的に始まるのです。
東アフリカ大地溝帯も、数百万年から数千万年という時間をかけて、最終的には紅海やアデン湾のように海水で満たされ、新しい海になると予測されています。今回の研究は、地球が新たな海洋を生み出すプロセスが、地下深くのマントルの鼓動によって制御されていることを示しています。
過去と未来をつなぐ「マントル脈動」
アファール低地で観測されたマントルの脈動は、単に現在の地質現象を説明するだけではありません。地球の遥かな過去に起きた出来事や、未来の地球の姿を解き明かす鍵となる可能性を秘めています。
地球の歴史を振り返ると、マントルの活動が地球環境に壊滅的な影響を与えたと考えられる時代がありました。「大規模火成活動」と呼ばれる現象は、短期間に膨大な量のマグマが地表に噴出し、気候を激変させます。例えば、約6000万年前に北大西洋で起きた大規模火成活動は、現在のアイルランドにある「ジャイアンツコーズウェー」の奇岩群を形成しました。このような活動は、大気中の成分を大きく変え、生命の歴史を塗り替えた「大量絶滅」の原因の一つになったとも考えられています。今回発見されたマントルの脈動は、過去の地球で起きた「心臓発作」とも言えるこれらの大災害のメカニズムを解明する手がかりになるかもしれません。
この研究は、未来を予測する上でも重要です。今後の研究では、マントルの流れがプレートの動きとどう連動し、特定の場所で火山活動を引き起こすのかをさらに詳しく調べることで、地殻変動の予測精度を高めることが期待されます。マントルの脈動の研究は、地球という巨大なパズルを解き明かす、重要なピースなのです。
地球の脈動が解き明かす、惑星の過去と未来
今回明らかになったマントルの「脈動」は、私たちが住む地球が、静的な岩石の塊ではなく、内部で絶えず活動し、その姿を変え続ける「生きた惑星」であることを改めて教えてくれます。アフリカ東部で進行中の大陸分裂と新しい海の誕生は、その壮大な物語のほんの一幕に過ぎません。
この研究成果は、以下の3つの重要な点を示しています。
- アフリカ東部で、マントルからの周期的でリズミカルな上昇流が観測されたこと。
- この「脈動」が、大陸を引き裂き、新しい海洋を形成する原動力となっていること。
- 同様のメカニズムが、過去の大量絶滅を引き起こした大規模な火山活動の原因であった可能性。
地震や火山の噴火は、時に私たちに脅威をもたらしますが、それらは地球が生きている証拠でもあります。その背後にあるマントルの脈動やプレートの動きといった根本的なメカニズムを知ることは、私たちが住むこの惑星をより深く理解することにつながります。
未来の地球は、大陸が移動し、新しい海が生まれ、今とは全く違う姿になっていることでしょう。科学者たちが解き明かそうとしている地球深部の謎に、私たちも好奇心を持って目を向け、この惑星の壮大な変化に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
