宇宙の果てしない広がりを想像するとき、「水はほとんど存在しないのでは?」と思う方も多いかもしれません。しかし、日本の探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウのサンプル分析から、その常識を覆すような驚きの事実が明らかになりました。
海外メディアでも報じられたこの「科学者、小惑星リュウグウに流れる水の痕跡を発見」という研究によると、かつてリュウグウには液体の水が長期間流れていた可能性があるというのです。
この発見のきっかけは、リュウグウの年代測定で判明した、太陽系の年齢(約46億年)よりも古い「約48億年」という奇妙な数値でした。この「ズレ」は一体何を意味するのでしょうか?小惑星で起きていた知られざる過去を、詳しく見ていきましょう。
年代測定の「ズレ」が明かすリュウグウの過去
小惑星リュウグウは、約46億年前に太陽系が誕生した頃の姿をそのまま残していると考えられており、「タイムカプセル」とも呼ばれています。そのため、リュウグウのサンプル分析は、太陽系の成り立ちや地球の水の起源を知るための貴重な手がかりとなります。
研究チームは、リュウグウの年代を特定するために「ルテチウム-ハフニウム年代測定法」を用いました。これは、ルテチウム176という放射性元素が、時間とともにハフニウム176という別の元素にゆっくりと変化する性質(放射性崩壊)を利用した、信頼性の高い「時計」です。しかし、この時計が指し示した年代は、太陽系が誕生したとされる時期より古い「約48億年」。この不可解な年代測定のズレが、大きな謎となりました。
研究者たちは、このズレを生んだ原因が「液体の水」の長期的な存在にあると結論付けました。リュウグウの内部で液体の水が岩石と反応し、ルテチウムとハフニウムのバランスを変化させたことで、年代測定の「時計」が狂ってしまったというのです。つまり、この測定のズレこそが、リュウグウに水が豊かに存在していた動かぬ証拠となったわけです。
地球の水の起源か?日本の探査が拓いた可能性
この発見は、地球の水や生命の起源に関する私たちの理解を大きく変えるかもしれません。太陽系が形成された初期、若い星の周りにはガスや塵からなる「原始惑星系円盤(げんしわくせいけいえんばん)」が広がっていました。この円盤の中には、水が氷として存在できる境界線「雪線(せっせん)」があり、その外側で生まれた小惑星には氷が豊富に含まれていたと考えられています。
今回の研究は、その氷がただ凍っていただけでなく、小惑星の内部で溶けて長期間、液体の水として活動していた可能性を示しました。もしそうなら、太古の地球に衝突した小惑星たちが、生命に不可欠な水を大量にもたらしたというシナリオが、より現実味を帯びてきます。
この画期的な発見は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」の成功なくしてはあり得ませんでした。リュウグウからサンプルを持ち帰るという極めて高度なミッションを成し遂げた日本の技術力が、太陽系の成り立ちという根源的な謎に迫る扉を開いたのです。
リュウグウの一滴が変える私たちの宇宙観
小惑星リュウグウが示した「約48億年」という不思議な年代。それは単なる測定エラーではなく、かつてそこに液体の水が存在したことを伝える、壮大な過去からのメッセージでした。科学の世界では、こうした予期せぬ「ズレ」こそが、新しい真実への扉を開く鍵となるのです。
リュウグウの研究はまだ始まったばかりです。今後は、サンプルに含まれるアミノ酸などの有機物と水がどう相互作用したのか、という分析が進められるでしょう。これは、生命の材料が宇宙で育まれ、地球へともたらされた経緯の解明に直結します。
宇宙の彼方にある小惑星の物語は、決して私たちと無関係ではありません。私たちが日々口にする水も、もしかしたら数十億年前に小惑星の中を旅していたのかもしれない——。そう考えると、日常の風景も少し違って見えてきませんか。「はやぶさ2」が持ち帰った小さな石のかけらは、私たちがどこから来たのかを問い直し、新たな宇宙観を与えてくれる、貴重な贈り物なのです。