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宇宙の始まり「重力波」が鍵か?ビッグバンに挑む新説、KAGRAが検証へ

「宇宙はどのように始まったのか?」— この根源的な問いに対し、これまでは約138億年前に起きた「ビッグバン」が答えとされてきました。しかし近年、この定説に根本から挑む新しい物理モデルが提案され、科学界で注目を集めています。

宇宙創成期に一体何が起こり、現在の宇宙を形作ったのでしょうか。本記事では、科学メディアSciTechDailyのニュース「私たちが知るビッグバン理論に挑む、新しい物理モデル」を基に、重力波が宇宙のすべてを創造したという、壮大な新理論の核心に迫ります。

ビッグバン理論に代わる?「重力波」が宇宙の種となる新説

定説「インフレーション理論」への疑問

これまで、宇宙誕生直後の爆発的な膨張を説明する最も有力な説は「インフレーション理論」でした。これは、宇宙が誕生した直後のごくわずかな時間に、指数関数的に急膨張したとする考え方です。この理論は、なぜ宇宙がこれほど広大で平坦なのか、といった長年の疑問を説明できるとされてきました。

しかし、インフレーション理論は、その急膨張を引き起こしたとされる「インフラトン」という仮想的な粒子の存在を前提としており、その実在はまだ観測されていません。この未確認の要素に依存する複雑さが、科学者の間で長年の議論の的となっていました。

新たな視点:重力波こそが宇宙の起源

そこでスペインとイタリアの研究者たちが、インフレーション理論に代わる、よりシンプルで検証可能な新しい物理モデルを提案しました。この新理論の核心は、宇宙の形成に中心的な役割を果たしたのは「重力波」である、という点です。

重力波とは、アインシュタイン一般相対性理論によって予言された、時空の歪みが波として伝わる現象です。このモデルでは、宇宙誕生の初期段階で生じた重力波が、銀河や星々、そして私たち生命に至るまで、宇宙のあらゆる構造を生み出す「種」になったと提唱しています。

研究の共著者であるICREA(カタルーニャ高度研究機関)のラウル・ヒメネス博士は、次のように語っています。「長年、観測されていない要素に基づいたモデルで宇宙の初期を理解しようとしてきましたが、この新しい提案はシンプルさと検証可能性が魅力です。推測的な要素を加えることなく、重力と量子力学だけで宇宙の構造形成を説明できる可能性を示しています。」

この新しい理論は、宇宙の始まりという壮大な謎に、これまでとは全く異なる光を当て、私たちの宇宙観を根底から覆す可能性を秘めているのです。

時空のさざ波「重力波」- 100年の時を超えた発見と新たな役割

新理論の主役である重力波は、その存在が確認されるまで、長い科学的探求の歴史がありました。

予言者たちとアインシュタインの理論

重力波という概念は、19世紀末から20世紀初頭にかけて、複数の先駆者によって示唆されていました。1893年にはイギリスの物理学者オリヴァー・ヘヴィサイドが、1905年にはフランスの数学者アンリ・ポアンカレが、その可能性に言及しています。

そして1916年、アルベルト・アインシュタインが自身の一般相対性理論の中で、重力波を、空間3次元と時間1次元を統合した「時空連続体」の歪みが波となって伝わる現象として数学的に予言しました。この理論は、重力の働きを根本から書き換える画期的なものでした。

史上初の直接検出:LIGOの偉業

アインシュタインの予言から約100年後の2015年9月、ついにその存在が直接証明される時が来ました。アメリカに設置されたレーザー干渉計重力波天文台LIGO)が、2つのブラックホールが合体する際に放出された重力波を史上初めて検出したのです。この歴史的発見は、アインシュタインの正しさを証明すると同時に、「重力波天文学」という新たな宇宙観測の扉を開きました。

新理論が示す重力波の新たな役割

そして今、重力波は宇宙で起きた出来事を観測する手段としてだけでなく、宇宙そのものを創り出した根源的な存在として、再び注目を集めています。今回の新モデルでは、重力波が「ド・ジッター空間」という理論的な時空モデルの中で宇宙の構造を形成したと提唱しています。これは、オランダの天文学者ウィレム・ド・ジッターにちなんで名付けられたもので、正のエネルギーを持つ真空の宇宙を記述する時空の枠組みです。

もしこの理論が正しければ、重力波の発見は、過去の偉大な科学者たちの知恵と現代の革新的なアイデアが結びついた、科学の進化の証となるでしょう。

日本の貢献:重力波望遠鏡「KAGRA」が拓く未来

この革新的な理論の検証において、日本の役割も重要になります。日本は重力波観測の分野で世界トップレベルの技術力を誇り、国際的な研究ネットワークに大きく貢献しています。

その象徴が、岐阜県神岡鉱山の地下に建設された重力波望遠鏡「KAGRA」です。KAGRAは、地面の振動といったノイズの影響を極限まで抑えられる地下施設という強みを活かし、米国のLIGOなど世界の観測網と連携しながら、宇宙の謎に迫っています。

重力波が宇宙の「種」になったという新理論は、日本の研究者たちに新たな探求の道を開くものです。これまでインフレーション理論を前提に進められてきた研究に対し、全く異なるアプローチで宇宙の初期を検証する可能性を示しています。今後、KAGRAで得られる精密な観測データと、日本が培ってきた理論物理学の知見を組み合わせることで、新理論が予言する特有の重力波の痕跡を探すなど、その検証に大きく貢献することが期待されます。

宇宙の始まりという壮大な謎解きに日本も参加しているという事実は、私たちにとって科学をより身近なものにしてくれるでしょう。

記者の視点:宇宙観を塗り替える、終わりなき探求

これまで「インフラトン」という未知の粒子に頼っていた宇宙創成の物語が、観測可能な「重力波」という、より確かな土台の上で再構築されようとしています。これは単なる新しい仮説の登場ではなく、私たちが宇宙を理解するための思考の枠組みそのものが、根本から変わる可能性を秘めているのです。

この理論の真価は、今後の観測によって問われます。日本のKAGRAをはじめとする世界の重力波望遠鏡が、宇宙最古の記憶である重力波の痕跡を捉え、このモデルの正しさを証明できるかどうかに、世界中の注目が集まっています。理論と観測が一体となって謎に挑む、これこそが科学の醍醐味と言えるでしょう。

宇宙の始まりというテーマは、日常生活とはかけ離れているように感じるかもしれません。しかし、「常識を疑い、よりシンプルな真理を探究する」という科学者たちの挑戦は、私たち人間が持つ根源的な知的好奇心の現れです。ビッグバン理論が絶対ではなかったように、この新しい理論もまた、未来の発見によって更新される日が来るかもしれません。

それでも、一歩ずつ謎に迫っていく科学のプロセスそのものに、私たちは夢と興奮を感じずにはいられません。次に宇宙から届く知らせは、私たちの宇宙観を再び大きく揺さぶるものになるかもしれないのです。その日を楽しみに、夜空を見上げてみてはいかがでしょうか。