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宇宙の始まりはブラックホール?ビッグバンを超える新説「バウンス理論」とは

皆さんは、私たちの宇宙がどのように始まったと思いますか?多くの人が「ビッグバン」と答えるかもしれませんね。しかし、もし宇宙の始まりが、今私たちが知るビッグバンとは全く違うものだったらどうでしょうか?

海外メディアNeowinで報じられた「Our Universe's origin is indeed a Black Hole and not the Big Bang, reckons this new study」は、宇宙の起源に関する常識を覆す可能性を秘めた、画期的な研究を紹介しています。この記事を読めば、宇宙の成り立ちに対する見方が大きく変わるかもしれません。

ビッグバンを超える新説「バウンス理論」とは?

これまで宇宙の始まりといえば「ビッグバン」が定説でした。宇宙が極小の一点から爆発的に膨張して始まったとする、標準宇宙論(standard cosmology)の根幹をなす理論です。しかし、この理論には、宇宙が誕生したまさにその瞬間、物理法則が適用できなくなる「特異点(singularity)」という大きな謎が残されていました。「無」から宇宙がどう生まれたのか、という根源的な問いに明確な答えを出せずにいたのです。

そこで登場したのが、「バウンスbounce)」と呼ばれる新理論です。この大胆な仮説は、私たちの宇宙が「無」から生まれたのではなく、過去に存在した巨大なブラックホールが自身の重力で収縮する重力崩壊(gravitational collapse)の果てに「跳ね返り」を起こし、新たな宇宙として膨張を始めた、というもの。床に落ちたボールが潰れずに弾んで跳ね返るようなイメージです。

この画期的な研究は、素粒子物理学宇宙論を扱う権威ある科学学術雑誌『Physical Review D』に掲載されました。

量子力学が引き起こす「宇宙の跳ね返り」の仕組み

では、なぜ重力による崩壊が無限に進まず「跳ね返り」が起こるのでしょうか。その鍵を握るのが、ミクロな世界の物理法則である量子力学(quantum mechanics)です。

特に重要となるのが「量子排他原理(quantum exclusion principle)」というルール。これは「同じ種類の粒子(電子や陽子など)は、同じ場所に同じ状態で存在できない」というものです。ブラックホールが形成される過程で物質が一点に圧縮されると、この原理によって粒子同士が強く反発し、それ以上潰れることができなくなります。まるで、満員電車がこれ以上人を乗せられないと拒むかのようです。

この限界点で物質は強力な反発力を生み、外側に向かって勢いよく「跳ね返る」。これがバウンスの正体であり、新たな宇宙の膨張の始まりだと考えられています。研究チームによると、このバウンスは特定の条件下では避けられない、必然的な現象だといいます。

観測で検証へ:バウンス理論が予測する宇宙の姿

このバウンス理論は、ただの空想ではありません。将来の観測によって検証可能な、具体的な予測を立てています。

外からは「ごく普通のブラックホール」に見える

このモデルの興味深い点は、私たちの宇宙を生み出したブラックホールが、外から見るとごく普通の「シュワルツシルトブラックホール(Schwarzschild black hole)」のように見えると予測していることです。これは、電荷を持たず回転しない、最も単純なブラックホールを指します。つまり、宇宙の誕生という劇的な出来事が内部で起こっていたとしても、外部からはそれを知る術がないかもしれないのです。

バウンス後の宇宙とダークエネルギー

理論によれば、バウンス後の宇宙の膨張は、現在の宇宙の膨張を加速させている謎のエネルギー「ダークエネルギー(dark energy)」と同様の役割を果たすとされています。これにより、ビッグバン理論で個別に説明されてきた宇宙の初期膨張(インフレーション)やダークエネルギーを、より統一的に説明できる可能性が出てきました。

「宇宙の形」が理論の真偽を暴く鍵に

この理論が正しいかどうかを確かめる最も有力な手がかりは、宇宙の幾何学的形状に隠されています。このモデルは、私たちの宇宙空間がごくわずかに「空間の正の曲率(positive curvature in space)」を持つと予測しています。これは、宇宙全体が巨大な球の表面のように、わずかに丸まっている状態を意味します。

この微細な「歪み」は、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「ユークリッド(Euclid)」のような高性能な観測装置で検出できる可能性があります。ユークリッドは、まさに宇宙の大規模構造や進化を解明するために設計されており、この理論の検証にうってつけです。

さらに、ESAの将来ミッション「Arrakihs」は、銀河の周辺にある淡い構造や、バウンスを生き延びたとされる古代の天体の痕跡を探すことを目的としています。これらの観測データが、私たちの宇宙の本当の起源を明らかにするかもしれません。

私たちの「始まり」を書き換える物語:ブラックホールから生まれた宇宙

私たちが長年信じてきた「ビッグバン」という壮大な始まりの物語。しかし、このバウンス理論は、その物語を根底から覆し、私たちのルーツを全く新しい視点から描き出します。宇宙は「無」から爆発的に生まれたのではなく、過去の宇宙に存在した巨大なブラックホールの内部で「再生」したのかもしれないのです。

この理論が示唆するのは、私たちの宇宙が一度きりの特別な出来事ではなく、より大きな「宇宙のサイクル(cosmic cycle)」の一部である可能性です。私たちが存在するこの宇宙も、いつか終わりを迎え、その中で形成されたブラックホールが、また新たな宇宙の種となるのかもしれません。まるで生命の輪廻転生(りんねてんせい)のように、宇宙自体が生成と消滅を繰り返しているという考え方は、私たちの想像力をどこまでも広げてくれます。「私たちはどこから来たのか」という根源的な問いに対し、ビッグバンが「創造」の物語だとすれば、バウンス理論は「継承」の物語を提示しているのです。

この記事を読んだ後、夜空を見上げるとき、その景色が少し違って見えるかもしれません。無数に輝く星々の向こうには、私たちの宇宙を生んだ「親」なるブラックホールの名残や、さらにその外側に広がる別の宇宙が存在するかもしれないのです。

この壮大な物語が科学的な真実として証明されるのか、その鍵は「ユークリッド」や「Arrakihs」といった未来の観測計画が握っています。科学の探求が私たちの常識を揺さぶり、世界の見方を変える瞬間を、ぜひ一緒に見届けましょう。