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ビッグバン直後誕生か?宇宙最古ブラックホール候補が解くダークマターの謎

夜空を見上げると無数の星が輝いていますが、その星々が生まれる遥か昔、宇宙が誕生して間もない頃に、すでにブラックホールが存在していたとしたら…?

そんな驚きの可能性が、最新の研究で報告されました。なんと、宇宙の始まりであるビッグバンからわずか1秒後に誕生したかもしれない、宇宙最古のブラックホールの候補が見つかったというのです。これは、私たちがこれまで考えてきたブラックホールの常識を覆し、宇宙の謎を解き明かす鍵となるかもしれません。

この記事は、海外メディアFuturismのニュース「Scientists Discover Black Hole Created Less Than One Second After the Big Bang」を基に、この驚くべき発見の経緯と、それが私たちの宇宙観に与える影響を詳しく解説します。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた「最古のブラックホール候補」

今回の発見は、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡JWST)が捉えた、宇宙初期の「小さな赤い点」から始まりました。研究者たちは、宇宙誕生から10億年も経っていない時代に存在した「QSO1」と名付けられた天体に注目しました。

このQSO1の中心には、太陽の約5000万倍もの質量を持つ巨大なブラックホールが存在する可能性が示唆されたのです。

従来の常識では説明がつかない謎

これまでの定説では、ブラックホールは主に、太陽より重い恒星が一生の最後に超新星(Supernova)爆発を起こし、その中心部が自らの重力で潰れることで誕生すると考えられてきました。その後、周囲のガスや星を飲み込みながら、長い時間をかけてゆっくりと成長するとされていました。

しかし、QSO1のブラックホールは、このモデルでは説明がつかないほど巨大です。宇宙が始まってからわずかな時間で、恒星が生まれ、死を迎え、そこからこれほど巨大なブラックホールに成長するのは、時間的にほぼ不可能だと考えられています。

さらに奇妙なことに、このブラックホールの周辺からは、ビッグバン直後に作られた水素やヘリウムといった初期の元素しか見つかっていません。恒星の活動によって生成されるはずの重い元素が存在しないのです。これは、このブラックホールが、まだ星がほとんど存在しない「裸」のような状態で誕生したことを示唆しています。

そこで有力な仮説として浮上しているのが、原始ブラックホール(Primordial black hole)という存在です。

「原始ブラックホール」が解き明かす宇宙の2大ミステリー

今回の発見で注目される「原始ブラックホール」は、恒星の死骸から生まれる通常のブラックホールとは全く異なる、仮説上の天体です。これは、ビッグバン直後の高密度・高エネルギー状態の宇宙で、物質が直接凝縮して形成されたと考えられています。

もし原始ブラックホールが実在すれば、宇宙論における長年の謎を解明する鍵になるかもしれません。

1. 超大質量ブラックホールの成長の謎

宇宙の初期には、QSO1のように不自然なほど巨大な超大質量ブラックホール(Supermassive black holes)が既に存在していたことが観測されています。恒星から始まる従来のモデルでは、その急成長を説明できませんでした。しかし、最初からある程度の大きさを持つ原始ブラックホールが「種」として存在していれば、この謎は解決できる可能性があります。

2. ダークマターの正体は何か?

宇宙の質量の大部分を占めながら、光などで直接観測できない謎の物質、ダークマター(Dark matter)。その正体は未だに不明ですが、この原始ブラックホールが候補の一つとして挙げられています。もし宇宙の初期に無数の原始ブラックホールが生成されていたなら、それらが現在の宇宙を満たすダークマターの正体なのかもしれません。

活発化する科学的議論

この発見は、科学者の間で活発な議論を呼んでいます。研究の共著者であるケンブリッジ大学のRoberto Maiolino教授は、このブラックホールが「ほとんど『裸』で、周りに銀河がほとんどないように見える」とし、従来の理論への大きな挑戦だと述べています。

一方で、ダラム大学宇宙論学者Andrew Pontzen教授のように、この研究は原始的な起源の可能性を強めるものの、「決着がつくには時間がかかるだろう」と慎重な見方を示す専門家もいます。

今後の展望:決定的証拠は「重力波」が握るか

この「宇宙最古のブラックホール候補」が本当に原始ブラックホールなのかを確かめるには、さらなる観測が不可欠です。その鍵を握ると期待されているのが、重力波(Gravitational waves)の観測です。

重力波とは、ブラックホールの合体など、宇宙の激しい現象によって生じる「時空のさざ波」です。もし宇宙初期に原始ブラックホールが多数存在していたなら、それらが合体する際に放たれた重力波が、今も宇宙を漂っているはずです。将来、LIGOやVirgo、そして日本のKAGRAといった重力波検出器(Gravitational wave detectors)の感度が向上すれば、その決定的な証拠を捉えられるかもしれません。

もちろん、JWSTによる観測も引き続き重要です。QSO1のような天体が他にも見つかれば、この現象が単なる偶然ではないことの強力な裏付けとなります。

こうした最先端の研究において、JAXA宇宙航空研究開発機構)や国立天文台をはじめとする日本の研究機関も、独自の観測プロジェクトや国際協力を通じて重要な役割を担っています。今後の観測技術の発展と、そこから得られる新たな知見に大きな期待が寄せられています。

書き換わる宇宙の物語:始まりの謎に迫る探求

今回の発見は、単に「古いブラックホールが見つかった」というニュースに留まりません。それは、私たちが知る宇宙の歴史、その「最初のページ」が、これまで考えられていたものとは全く違う形で書かれている可能性を示唆しています。

これまでは「星が生まれ、その一生の最後にブラックホールができる」というのが定説でした。しかし、もし星が誕生するよりも前にブラックホールが存在していたとしたら…? それは、物語の登場人物が作者より先に存在していたかのような、根源的な問いを私たちに投げかけているのです。

「宇宙の始まりはどのような姿だったのか」「私たちは何でできているのか」といった根源的な問いに対し、科学は一歩ずつ答えに近づこうとしています。

次にあなたが夜空を見上げるとき、きらめく星々のさらに奥、この宇宙が誕生したばかりの熱いスープの中から生まれたかもしれない「最初のブラックホール」に、少しだけ思いを馳せてみてはいかがでしょうか。見慣れた星空も、きっと今までとは違う、新たな物語を語りかけてくれるはずです。

この発見が最終的にどのような結論に至るかは、まだ誰にも分かりません。しかし、私たち人類の知の探求が、また一つ、エキサイティングな章に突入したことは確かです。その結末を、共に見届けていきましょう。