ゲームをより楽しむための「ルートボックス」やアイテムスキン。しかし、こうした仕組みがギャンブル要素と結びつき、問題視されるケースが増えています。
人気サバイバルゲーム『DayZ』や『Icarus』で知られるゲームクリエイターのディーン・ホール氏は、大手ゲームプラットフォームValveがこれらの仕組みで収益を上げていることについて「十分な批判を受けていない」と問題を指摘。これは、プレイヤーだけでなく、ゲーム業界全体が向き合うべき課題と言えるでしょう。
本記事では、ホール氏の指摘を基に、ゲームの収益化が抱える問題と、彼が模索する新たなゲームのあり方について、海外メディアEurogamerの報道「『DayZ』開発者、Valveのギャンブル的収益モデルを批判」を参考に掘り下げます。
なぜゲームの「ギャンブル要素」は問題視されるのか
ゲーム内で手に入るアイテムがランダムに決まる「ルートボックス」は、日本の「ガチャ」のようにプレイヤーの射幸心を煽る仕組みです。ゲーム体験を豊かにする一方で、そのギャンブル性が世界的に問題視されています。
ホール氏は、Valveが提供するゲームのルートボックスについて、その収益化の手法が十分に批判されていないと指摘し、ゲームにおけるギャンブル要素は容認されるべきではないと強く主張しています。さらに、開発者が自社の仕組みに問題がないと信じているのなら、「データを大学などの研究機関に提供し、検証を受けるべきだ」と訴えています。
具体例の一つが、『Counter-Strike 2』の武器やアーマーのスキンです。これらはルートボックスからランダムで出現し、プレイヤー間で売買される巨大な市場を形成しています。
ルートボックスが問題視される最大の理由は、そのランダム性にあります。プレイヤーは実際のお金を使いますが、何が手に入るかは運次第です。希少なアイテムの出現率は極めて低く設定されていることが多く、「次こそは当たるかもしれない」という心理が、意図せず高額な課金につながるケースが後を絶ちません。
こうした懸念から、オランダなど一部の国ではルートボックスを法律で規制する動きもありました。しかし、多くの企業はルートボックスを開ける「鍵」を別売りするなど、法的なグレーゾーンで同様のビジネスを続けているのが現状です。
開発者の本音「パラドックスモデル」という葛藤
「できることなら、無料でゲームを楽しんでもらいたい」。そう考えるのは、プレイヤーだけではないかもしれません。実は、多くのゲーム開発者も現在の収益モデルに葛藤を抱えています。
ホール氏が率いるスタジオ「RocketWerkz」が開発したSFサバイバルゲーム『Icarus』も、当初は基本プレイ無料を目指していましたが、計画を変更。現在は有料のダウンロードコンテンツ(DLC)で収益を得ています。ホール氏自身、この現状を「パラドックスモデル」と呼び、その矛盾を語ります。
パラドックスモデルとは、文字通り「矛盾」をはらんだビジネスモデルのことです。4年前に『Icarus』をリリースした際、スタジオは財政的に破綻寸前でした。生き残るためには、不本意ながらも高額なDLCを販売するしかなかったのです。最近ようやく経営は好転し始めたものの、このモデルに満足しているわけではないと彼は明かします。
この問題は彼らに限りません。ホール氏は「ゲームスタジオの99%は、現在の収益化モデルを望んで採用しているわけではない」と指摘。多くの開発者が、作りたいゲームへの情熱と、事業を存続させるための収益確保という現実との間で苦しんでいる実情を明らかにしました。
新たな選択肢としての「貢献モデル」
多くの開発者が収益化に悩む中、ホール氏は新たなゲームの形を模索しています。
彼が開発中の新作『Kitten Space Agency (KSA)』は、人気宇宙開発シミュレーション『Kerbal Space Program (KSP)』から着想を得たゲームです。ホール氏は「インスピレーションは自由であるべきだ」との理念から、このゲームを基本プレイ無料で提供することを目指しています。
では、どうやって収益を確保するのか。そこで検討されているのが「貢献モデル」です。これは、プレイヤーがゲームを楽しんだ上で、開発を応援したいと感じた場合にのみ、任意でお金を支払う仕組み。支払いは義務ではなく、ゲームプレイにも影響しません。
ゲームの購入や課金が前提だと、プレイヤーは「損をしたくない」という気持ちになりがちです。しかし、このモデルなら、プレイヤーは純粋にゲームの面白さや創造的な喜びに集中できます。この試みが、開発者とプレイヤーの間に新しい関係を築けるのか、注目が集まっています。
ゲームの未来を形作る、プレイヤーの選択
理想のゲーム作りとビジネスの存続という、ホール氏が直面するジレンマは、ゲーム業界全体の課題を象徴しています。
ルートボックスやガチャは「偶然の幸運」に、DLCは「完成されたコンテンツ」にお金を払う仕組みです。そして、ホール氏が試みる「貢献モデル」は、開発者の創造性や未来への「応援」としてお金を託す形と言えるでしょう。
特に、ガチャ文化が根付いている日本では、この問題は決して他人事ではありません。私たちが支払うお金がどのような価値と結びついているのかを意識することが、ゲームとの健全な向き合い方につながるはずです。
次にどのゲームを手に取り、どうお金を払うか。一つひとつの選択が、開発者へのメッセージとなり、業界の未来を形作っていきます。どのようなゲーム体験を望み、それをどう支えたいか。私たちプレイヤーの選択が、より健全で創造的なゲーム文化を築くための一歩となるのです。
