国際宇宙ステーション(ISS)が2030年代に退役を予定する中、その後を担う次世代の宇宙拠点を巡る開発競争が激化しています。
米IT・技術系メディア「民間初の商業宇宙ステーションHaven-1、打ち上げに向け組み立て作業中」の取材に対し、民間宇宙ステーション開発企業Vast SpaceのCEOは、同社が手がける世界初の商業宇宙ステーション「Haven-1」の開発状況を明らかにしました。現在、地上での組み立て作業は最終段階を迎えており、打ち上げは2027年第1四半期を目指して計画が進められています。これに先立ち、2026年末にはNASAの環境試験施設で、宇宙空間を想定した最終試験が行われる見通しです。
Haven-1:安全性を最優先した開発と打ち上げ計画
Vast SpaceのHaven-1開発は重要な局面を迎えています。2026年1月にはステーションの主要構造体が完成し、品質基準を満たしているかを確認する「受け入れ試験」を無事に通過しました。現在は、クリーンルーム内での統合(精密機器の組み込み)作業が急ピッチで進められています。機内の温度を適切に保つ熱制御システム(TCS)や推進システム、電子機器の取り付けなどが進行中です。
打ち上げ時期を2027年初頭と設定した背景には、徹底した安全性の追求があります。世界初の商業宇宙ステーションとして、地上でのテストを完璧に行い、宇宙空間でのリスクを最小限に抑える戦略です。2026年秋には、オハイオ州にあるNASAの大型試験施設「プラム・ブルック・ステーション」へ機体を輸送し、実際の宇宙環境を再現した環境下での性能評価が予定されています。
有人ミッションへのロードマップと期待される滞在体験
Haven-1はまず無人で打ち上げられ、軌道上で数週間にわたるシステムチェックを行います。姿勢制御や通信、生命維持システムが正常に機能することを確認した後、有人運用へと移行します。乗組員の輸送には、SpaceXのDragon宇宙船が活用される計画です。
最初の有人ミッションは、約2週間のミッション期間が想定されており、そのうちステーションでの滞在は約8日間と計画されています。この短期滞在を通じて、居住性や乗組員の健康状態が評価される予定です。将来的には、30日間の滞在ミッションも選択肢として検討されており、民間宇宙旅行の新たな拠点としての活用が期待されています。
乗組員の訓練計画も安全性を最優先して策定されています。経験豊富な飛行士向けの半年程度の圧縮訓練から、最大3年を要する包括的なプログラムまで、ミッションの性質に応じた複数の訓練期間が検討されています。
ポストISSを見据えた「Haven-2」とNASAの商業宇宙ステーションプログラム
Vast SpaceはHaven-1を足がかりに、次世代の大型ステーション「Haven-2」の構想を掲げています。これはHaven-1で培った技術を応用し、複数のモジュールを連結させることで、ISS退役後の長期的な活動を支える巨大な拠点を築く狙いです。
現在、NASAはISS退役後も低軌道での活動を継続するため、「商業低軌道開発(CLDs)」プログラムを通じて民間企業を支援しています。この分野では、三菱商事も参画する「Starlab」を開発するVoyager Technologiesや、Axiom Spaceといった競合他社が開発を進めています。Vast SpaceのCEOは、NASAが近く発行する「提案依頼書(RFP)」によって、次世代ステーションの競争がさらに本格化すると見ています。提案依頼書(RFP)とは、具体的な要求仕様書であり、競合企業がそれに基づいて提案を行うためのものです。
日本の技術が貢献する「軌道上経済」の可能性
Vast Spaceはすでに日本に子会社を設立しており、日本の高度なものづくり技術をステーションに組み込む動きを見せています。これは、宇宙空間が新たなビジネスの場となる「軌道上経済」の到来を予見したものです。宇宙の微小重力環境は、高品質な半導体や新素材、医薬品の製造に適しており、日本が得意とするロボティクスや精密機器製造の技術は、こうした宇宙工場を実現するための重要な鍵となります。
NASAの商業宇宙ステーションプログラムにおける政策決定のスピード感には課題が残るものの、民間主導の開発は止まりません。宇宙が一部の専門家だけのものではなく、私たちの経済や生活を支えるプラットフォームへと進化する日は、もうすぐそこまで来ています。
