日本列島には111の活火山がある。噴火のニュースが流れるたびに「うちの近くの山は大丈夫だろうか」と心配になった経験を持つ人も多いはずです。ところが最近の研究で、数十キロも離れた別々の火山が地下でマグマの通路を共有し、互いに影響を及ぼし合っていることが次々と明らかになっています。「連動する火山の会話に耳を傾ける研究者たち」と題したQuanta Magazineの記事が、この「火山のカップリング」という新たな概念を詳しく報じています。
100年前の謎が解き明かした「マグマの横移動」
「火山のカップリング」が初めて示唆されたきっかけは、意外にも100年以上前の出来事でした。1912年、アラスカのカトマイ山で20世紀最大級の噴火が起き、山頂は深さ1km、直径2.5kmの巨大な陥没地形に変わりました。ところが1950年代の地質調査で驚くべき事実が判明します。噴出物の化学分析から、マグマが実際に噴き出したのはカトマイ山ではなく、約10km離れたノバラプタという別の火口だったのです。
地下で加圧されたマグマが、圧力の低い方向へ横に移動していたのです。いわば、地下水が自噴井戸から湧き出すのと同じ仕組みでした。この発見は当時、例外的な現象と見なされていましたが、近年の観測技術の進歩により、世界中で同様の事例が報告されるようになりました。
アイスランドとハワイで捉えた「リアルタイムの連動」
火山の連動が初めてリアルタイムで確認されたのは2014年のアイスランドでした。バルダルブンガ火山で噴火の兆候が現れたものの、地震活動は45kmも離れたホルフロインへと移動し、そこで大規模な噴火が発生しました。アイスランドの過去300年で最大級の噴火は、まさに「連動」の産物だったのです。
さらにレイキャネス半島では2020年以降、ファグラダルスフィヤルとスヴァルツエンギという2つの火山系が興味深い振る舞いを見せています。研究者によると、この2つの火山系は「決して同時には活発化しない」のだそうです。まるで順番を決めているかのように交互に噴火する様子は、地下でマグマを融通し合っている証拠と考えられています。
一方、ハワイでは機械学習が火山研究に革命をもたらしました。地球物理学者が開発したAIアルゴリズムは、人手では見逃されていた微弱な地震を従来の約10倍検出することに成功しました。この技術をキラウエアとマウナロアに適用したところ、2つの火山を結ぶ巨大な地下通路システム「パハラ・シル複合体」が発見されました。化学的に異なる溶岩を噴出する独立した火山と考えられていた2つが、実はより深い場所でマグマ源を共有していたのです。
サントリーニ島の地震が暴いた海底火山との絆
2025年には、ギリシャのサントリーニ島で劇的な発見がありました。新たに設置されたセンサーが、地下約3kmまで上昇するマグマの動きを捉えたのです。機械学習を用いた解析の結果、このマグマは北東約7kmに位置する海底火山コルンボのマグマだまりから「借りてきた」ものだと判明しました。この地震危機では28,000回以上の地震が記録され、マグマが地表に到達しなかった後には、両方の火山が同時に収縮する様子も観測されました。まさに2つの火山が1つのシステムとして振る舞っていた証拠です。
記者の視点:日本の火山防災に突きつける問い
「連動する火山はお互いに会話しているようだ」と、カーネギー研究所の研究者は表現しています。交互に噴火したり、同時に噴火したり、化学的に異なる溶岩を出しながらも深部で繋がっていたり。その「会話」のパターンは実に多様です。
火山大国・日本にとって、この研究が示す意味は大きいといえます。2026年3月には神戸大学と海洋研究開発機構が鬼界カルデラ直下で大規模なマグマだまりを発見したと発表しており、日本でもマグマの地下ネットワークの解明が進んでいます。従来、日本の火山監視は個々の火山を独立した存在として扱ってきました。しかし、もし隣接する火山同士が地下で繋がっているなら、1つの火山の異変が別の火山の噴火につながる可能性も考慮しなければなりません。
火山の「声」を聴く時代へ
機械学習とセンサー技術の進歩により、火山学は「個」の観察から「ネットワーク」の理解へと大きく転換しつつあります。地下のマグマがどこをどう流れ、どの火山に向かうのか。その全体像が見えてくれば、噴火予測の精度は飛躍的に向上するでしょう。火山の地下の「会話」に耳を傾ける研究者たちの挑戦は、私たちの安全を守る新しい防災の礎になるかもしれません。
