ワカリタイムズ

🌍 海外ニュースを「わかりやすく」

水には「2つの液体」が隠れていた、30年越しの仮説を国際チームが実証

蛇口をひねれば出てくる水。料理に使い、風呂に浸かり、毎日何気なく接しているこの液体が、実は科学者たちを長年悩ませてきた「謎だらけの物質」だと聞いたら驚くでしょうか。「水の奇妙さを説明する『2種類の液体水』を発見したと研究者らが主張」とChemistry World誌が報じたところによると、スウェーデンと韓国を中心とする国際研究チームが、水が極低温で2つの異なる液体に分かれるという30年来の仮説を裏付ける決定的な証拠を得ました。この発見は、水に対する従来の理解を大きく更新するものです。

水はなぜ「変わり者」なのか

水には、他の液体には見られない異常な性質が60以上知られています。たとえば、ほとんどの液体は冷やすほど密度が上がりますが、水は4℃で密度が最大になり、それ以下では逆に軽くなります。だからこそ氷は水に浮かび、湖は表面から凍ります。もし水が「普通の液体」なら、湖は底から凍り、魚は冬を越せないでしょう。

他にも、水の沸点や表面張力は分子の大きさに比べて異様に高く、圧縮されにくいという特徴もあります。こうした「水の異常性」の根本原因を説明するために、1992年に大胆な仮説が提唱されました。それは、水には実は2種類の液体状態があるという考えです。

1992年の予言が現実になるまで

1992年、ボストン大学の研究チームがNature誌に発表した論文で、極度に冷却された水の中に「高密度の液体」と「低密度の液体」という2つの異なる状態が存在すると予測しました。低密度の方は水分子同士が水素結合でつながり、互いに距離を保った開いた構造をしています。一方、高密度の方は水素結合が少なく、分子がより密集した構造です。

しかし、この2つの液体状態が現れる領域は、マイナス50℃以下、約1000気圧という極限環境にあります。問題は、そこまで水を冷やすと瞬時に凍ってしまうことです。液体のまま観察することが事実上不可能なため、30年以上にわたって間接的な証拠しか得られていませんでした。

ナノ秒の勝負で「2つの水」を捉えた

ストックホルム大学の研究者らと韓国・浦項工科大学校の研究者らによる共同チームが、この壁を突破しました。研究成果はScience誌に掲載されています。

チームが用いた手法は、まさに時間との勝負でした。まず、液体のように無秩序な構造を持つアモルファス氷(非晶質氷)をサンプルとして用意します。これに超高速レーザーパルスを照射し、1ナノ秒(10億分の1秒)以内に融解させます。融けた水は真空チャンバー内で膨張し始め、圧力が徐々に低下していきます。

この膨張の過程でX線散乱を用いて液体の構造を次々と測定しました。結晶化が始まるまでのわずか数マイクロ秒の間に、すべての測定を完了させなければなりません。1992年に水の二相仮説を提唱したチームの一人である物理学者は、「10年前には想像すらできなかった実験だ」と語っています。

「発散」が示す臨界点の存在

研究チームは今回の実験で、サンプルの比熱容量(温度を上げるのに必要なエネルギー)を測定しました。温度がマイナス63℃付近に近づくにつれ、比熱容量が急激に上昇し、際限なく増大する兆候を示したのです。

これは物理学で「発散」と呼ばれる現象で、臨界点の存在を示す決定的なサインです。臨界点とは、2つの異なる相の区別が失われる温度・圧力条件のことです。水と蒸気が区別できなくなる臨界点(約374℃、218気圧)は以前から知られていますが、今回見つかったのは液体同士の臨界点、つまり液液臨界点です。

この発見は何を意味するのでしょうか。私たちが日常で使っている常温の水は、この液液臨界点より高温側にあり、2つの液体の性質が混ざり合ったように振る舞っています。密集しようとする力と、水素結合で距離を保とうとする力がせめぎ合っています。このせめぎ合いこそが、水の密度が4℃で最大になる理由をはじめ、数々の異常な性質の源だったのです。

記者の視点:最も身近な物質の、最も深い謎

「水は理解し尽くされた物質だ」と思っている人は多いでしょう。しかし実際には、蛇口から出るありふれた液体の中に、物理学の最先端に位置する未解明の問題が潜んでいました。

今回の研究の意義は、単に仮説が正しかったと証明しただけにとどまりません。極限環境でしか現れないはずの2つの液体の性質が、常温常圧の水にも「影」を落としていることを示した点が画期的です。生命が水なしでは存在できないのは、まさにこの異常な性質のおかげです。地球の気候システム、生態系、そして私たちの体を支えている水が、なぜそれほど特別なのか。その答えの核心に、ようやくたどり着きつつあります。

30年の探求が照らす「水の真実」

1992年に理論として予測され、30年以上にわたって実験的証拠が求められてきた水の二相仮説。超高速レーザーとX線散乱という最先端技術の組み合わせが、ついにその実証を可能にしました。今後はこの臨界点の性質をさらに詳しく調べることで、水の異常物性の全体像がより鮮明になっていくと期待されています。身近な水の中に、なお最先端の物理学が息づいていることを思い出させる研究成果です。